コラム

高年齢層の雇用拡大は新卒採用にどう影響するか?

2020年09月07日(月)15時15分

人手不足解消と社会保障の担い手を増やす目的で推進されている高年齢者雇用 stockstudioX-iStock

<70歳までの定年延長など高年齢層の雇用を促進する政策と、若年層の雇用維持を両立するには>

政府が70歳雇用を推進

1970年代までには55歳が一般的だった日本の定年年齢は、平均寿命の上昇や出生数の減少による労働力不足等の影響によって、継続的に引き上げられてきた。政府は高年齢者雇用安定法を改正することで、1985年に60歳定年を努力義務とし、1994年には法を改正して60歳定年を義務化する規定を設け、1998年からは60歳定年を施行した。その後、2006年には高年齢者雇用安定法を改正して65歳までの継続雇用を義務化する規定を設け、2013年から施行している。

さらに、今年の3月31日には希望する人が70歳まで働けるよう、企業に就業機会確保の努力義務を課すことを柱とした高年齢者雇用安定法の改正案が、参院本会議で自民党などの賛成多数により可決、成立した。改正案は、健康な高齢者の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くすることを目的としており、2021年4月から施行されることになっている。

現行法では、定年を65歳未満に定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、(1)定年制の廃止、(2)65歳までの定年の引き上げ、(3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度)の導入のうち、いずれかの措置を実施することを義務化している。

今回の改正案では、(2)や(3)の年齢を70歳までに引き上げた。さらに、企業が上記の三つの選択肢に加えて、社外でも就労機会が得られるように、(4)他企業への再雇用支援、(5)フリーランスで働くための資金提供、(6)起業支援、(7)NPO活動などへの資金提供という四つの項目を追加した。

高年齢者と新卒者の雇用の現状

政府の高年齢者雇用推進政策により、労働市場に参加する高年齢者は年々増加している。60~64歳と65歳以上の就業率は、高年齢者雇用安定法が改正された2006年の52.6%(397万人)と19.4%(395万人)から2019年には70.3%(508万人)と24.9%(784万人)まで上昇しました。60歳以上の就業者数は13年間で500万人近く増加したことが分かる。

一方、20~24歳と25~29歳の就業率は2006年の64.2%(472万人)と80.0%(656万人)から2019年には72.4%(457万人)と86.7%(533万人)まで上昇しているが、就業者数は絶対数の減少により13年間で1,128万人から990万人と138万人も減少した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、第4四半期売上高見通しが予想上回る 

ビジネス

米ターゲット、既存店売上高3期連続マイナス 経営改

ワールド

トランプ氏、支持率低下認める 「賢い人々」の間では

ワールド

イスラエル軍、レバノン南部への攻撃強化 「ヒズボラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story