コラム

少子化が深刻な韓国で育児休業パパが急増している理由

2022年06月30日(木)11時50分

日本と同じく少子化が深刻な韓国で男性の育休取得率が上がっている kazuma seki-iStock.

<育児休業に入る父親に十分な給付が支払われる仕組みが功を奏した>

厚生労働省が6月に発表した2021年の日本の合計特殊出生率は1.30で、2020年の1.34を下回った。一方、隣国韓国の2021年の出生率は0.81(暫定値)で2020年の0.84を下回ると予想されている。出生率の低下は日本より韓国が深刻であることが分かる。

このように出生率の低下が続いている中で韓国では男性の育児休業取得率が増加している。2002年に男性の育児休業取得者数は78人で、取得割合は対象者のわずか2.1%に過ぎなかったが、2021年には29,041人となり、取得割合も26.3%まで上昇した(2022年第1四半期に育児休業を取得した男性は7,993人で前年同期比25.6%増加)。なぜ、最近韓国では多くの男性が育児休業を取得しているのだろうか。

男女別育児休業取得者と全育児休業取得者のうち男性が占める割合
kin20220629140701.jpg
出所)雇用労働部(雇用保険DB資料)から筆者作成

韓国で男性の育児休業取得者が増えた理由としては、女性の労働市場参加の増加や育児に対する男性の意識変化等の要因もあるものの、最も大きな要因として同じ子どもを対象に2度目の育児休業取得を促す「パパ育児休業ボーナス制度」の施行が挙げられる。

「育児休業給付金」の特例制度である、いわゆる「パパ育児休業ボーナス制度」は、男性の育児休業取得を奨励し、少子化問題を改善するために2014年10月に導入された(実際には2回目は父親が取得することが多いので、通称「パパ育児休業ボーナス制度」と呼ばれている)。

同制度は、同じ子どもを対象に2回目に育児休業を取得する親(90%は男性)に、最初の3カ月間について育児休業給付金として通常賃金の100%を政府が支給する制度だ(韓国における通常賃金は、基本給と各種手当で構成されており、変動性の賃金(手当)は除外される。通常賃金は、時間外・休日労働手当や退職金を計算するための基準となる。)。

更に「パパ育児休業ボーナス制度」では、最初の3カ月間の支給上限額は1カ月250 万ウォン(263,250円、6月28日の為替レート1円=0.1053ウォンを適用、以下同一)に設定されており、それは1回目に育児休業を取得する際に支給される育児休業給付金の上限額(1カ月150万ウォン(157,950円))よりも高い。

このように、育児休業を取得しても高い給与が支払われるので、中小企業で働いている子育て男性労働者を中心に「パパ育児休業ボーナス制度」を利用して育児休業を取得した人が増加したと考えられる。実際、2020年における育児休業取得者数の対前年比増加率は、従業員数30人以上100人未満企業が13.1%で最も高い(従業員数10人以上30人未満企業は8.5%、従業員数300人以上企業は3.5%)。

2022年からは「パパ育児休業ボーナス制度」が改正され、適用対象が既存の全ての子供から、産まれてから12カ月以降の子供に変更され、父母が順次的に(必ず母親と父親の取得期間がつながる必要はない)育児休業を取得した際に適用される。適用対象を変更した理由は、2022年から育児休業制度の特例として「3+3親育児休業制度」が施行されるからである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、機関投資家向け仮想通貨取引サービス検

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、利益確定が上値抑制 マイ

ビジネス

米国との貿易協定、来年早々にも署名の可能性=インド

ビジネス

為替、ファンダメンタルズ反映しているとは到底思えず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story