コラム

少子化が深刻な韓国で育児休業パパが急増している理由

2022年06月30日(木)11時50分

「3+3親育児休業制度」とは、生まれてから12カ月以内の子供を養育するために父母が同時に育児休業を取得した場合、最初の3カ月間について育児休業給付金として父母両方に通常賃金の100%を支給する制度だ。

韓国における育児休業給付金の概要
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2021年までの「パパ育児休業ボーナス制度」では、父母の両方が育児休業を取得しても先に取得した人には通常賃金の80%が支給されていた。また、2022年からは育児休業を取得してから4~12カ月の間に支給される育児休業給付金が既存の通常賃金の50%から通常賃金の80%に改善された。韓国政府はこの制度の施行により男性の育児休業取得および育児への参加時間が現在より増加すると期待している。

しかし、まだ韓国では育児や家事の負担は女性側に偏っている。韓国統計庁の「2019年生活時間調査結果」によると、2019年の男性の平日の家事労働時間は48分で2014年より9分増加したものの、女性の190分を大きく下回っている。

一方、厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2020年における民間企業に勤める日本の男性の育児休業取得率は12.7%で過去最高を更新したものの、女性の81.6%とはまだ大きな差を見せている。

日本政府は男性の育児休業取得率を2025年までに30%に引き上げるという目標を掲げており、それを達成するために、2021年6月、男性の育児休業取得促進を含む育児・介護休業法等改正法案を衆議院本会議において全会一致で可決・成立させた。その結果、2022年10月には「出生時育児休業(産後パパ育休)」が新たに創設されることになった。

「出生時育児休業(産後パパ育休)」とは、男性労働者が子どもの出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度であり、原則として休業2週間前までの申し出で休暇取得が可能になった(既存の育休制度では原則1ヵ月前までの申し出が必要)。

また、育児休業4週間を分割して2回取得することと、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主で事前に調整して合意した範囲内で就業することもできるようになった。既存の制度では原則禁止とされていた育休中の就業が認められることになったのは「出生時育児休業(産後パパ育休)」の大きな特徴だと言える。

一方、育児休業期間中に支給される育児休業給付は6カ月間は休業前賃金の67%を上限と(育児休業の開始から6カ月経過後は50%)した。専門家の間では育児休業給付の引き上げを主張する声もあったそうだが実現までは至らなかった(日本の男性の育児取得に関しては、久我 尚子(2021)「男性の育休取得の現状-2020年は過去最高で12.7%、5日未満が3割、業種で大きな差」ニッセイ基礎研究所が詳しい)。

今後、日本政府が男性の育児休業取得率30%を目標を実現するためには、もしかすると韓国で実施されている「パパ育児休業ボーナス制度」と「3+3親育児休業制度」が参考になるかも知れない。経済状況の改善や賃金の大幅引き上げを期待することが難しい現状を考慮すると育児休業中の所得確保は子育て家庭においてとても大事な部分であるからである。

日韓共に女性に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合い、ワーク・ライフ・バランスがより実現できる社会が構築され、出生率の改善にも繋がることを望むところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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