コラム

歴史あるイギリスらしい素敵な街なのに、地味で田舎で自虐的......ノリッジ旅行はいかが?

2023年07月19日(水)18時00分
ノリッジ大聖堂

ノリッジ大聖堂をはじめ歴史ある建造物も見どころ HANNAH MCKAY-REUTERS

<毎年訪れているイギリス東部ノーフォーク州ノリッジ。イメージ的にはパッとしないがなかなか味わい深いこの都市をお勧めしたいわけ>

年に数回、僕はイギリス東部ノーフォーク州のノリッジを訪れる。本当に好きな街だ。そこはエリートが住んでいない「アンチ・ロンドン」的な場所で、ファッショナブルとは無縁で、イギリス国内で最も人種的多様性に乏しい街の1つでもある。ノリッジはイギリスの「第2の都市」と言えるかもしれないが(ノリッジの資料館は敢えてそう称している)、ノリッジの外から来た人がそんなふうに言うことはないだろう。

僕だったら、個人的にはグラスゴーが「第2の都市」に当たると言う。スコットランドの首都、エディンバラを挙げることもできるかもしれない。多くの人は、「バーミンガム?」とはてなマーク付きで答えるかもしれない(人口では第2位だがあまり好かれていない都市だ)。マンチェスターを挙げる人もいるだろう。ここは人口で第3位だがバーミンガムやノリッジよりも「ブランド」力が高い。一時期イギリスの首都のようなものだったからと、北部の人はヨークを挙げるかもしれない。

話をノリッジに戻そう。ノリッジが「第2の都市」を主張するのは、長く続く歴史ゆえだ。ノリッジは、産業革命後にマンチェスターやその他多くの都市が地図に載るのより1000年ほど前から存在したイギリスの都市の中で最大級のものの1つだった。だからノリッジには長い歴史があり、それは建築にも見て取れる。簡単に歩いて回れる範囲内に、数十もの古代教会が存在している。僕が出会った日本人居住者は、ノリッジを「イングランドの京都」と呼んでいた。

ノリッジ大聖堂とノリッジ城は特に圧巻だ。ノリッジを訪れるたびに僕は新たな発見をしていて、今回は11世紀にその大聖堂と城を築いたノルマン人が、石をフランスから輸入していたことを知った。ノリッジにある他の歴史的建造物がそろって地元の石英の砕石で作られている(それ自体、石灰岩とは違って興味深く珍しくもある)のに、大聖堂と城ばかりは白いのが際立っていたから、僕はこれを知って目から鱗が落ちる思いだった。

ノリッジがイメージでパッとしていないのは、何とも奇妙だ。外国人旅行者は大勢で訪れ、この街をとても気に入っている。それなのに、イングランドの他の地域の人々がここを訪れるのは珍しい。おそらく例えるなら、日本人が、イギリス人旅行者から東京と京都と広島と富山を旅する予定だと聞くようなものだ。多分こうなる──「富山? なんで?」

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ワールド

米代表団、来週インド訪問 通商巡り協議=インド政府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story