コラム

選挙前だけ大衆受けを狙い、当選後は本性を現す...わけではなかったスターマー英首相

2025年05月20日(火)16時14分
キア・スターマー英首相

就任から約1年、公約を守り中道を行くスターマー英首相に意外感 HANNAH MCKAY―REUTERS

<中道っぽく見せてどうせすぐゴリゴリ左派政権になるんでしょ?と思われていたスターマーの労働党政権だが就任1年で見えてきたこと>

イギリスのキア・スターマー首相が就任してもうすぐ1年になるので、少し彼について考えてみようと思う。彼は一般に「退屈な」男と見られており、それもなるほどうなずける(彼は派手でもなければ刺激的でもない)。

それでも僕は、彼には驚いたとも言わざるを得ない。僕は概して保守的(または自分的には「主流」と言いたい)なので、労働党政権をさらに嫌いになるだろうと思っていた。


イギリスの左派も同様に、スターマーに驚かされている(あるいは「失望した」)。スターマーはもっと急進的だろうと期待して(あるいは「願って」)いたからだ。

彼ら(そしてある程度は僕も)は、スターマーがひとたび権力を握れば公約をないがしろにして骨抜きにし、典型的な社会主義者の「増税と財政支出」路線の首相になるだろうと予期していた。

左派たちお気に入りのあらゆる大義を、きっとスターマーは採用するのだろうと、人々は期待/懸念していた――国境を開放し、人種差別の定義を拡大し、それに対するさらなる「闘争」を行い、トランスジェンダーの権利を拡大し......。

公約を守っていることに驚く

そんなわけだから、彼が選挙公約を守り、むしろこれらの問題についてここ数年で主流に寄ってきていることに、僕はむしろ驚いた。

例えば、彼は「女性の定義を生物学的女性に限定する」とした最近の英最高裁の決定を受け入れた。スターマーはこの判決が「明確さ」をもたらしたと述べたが、数年前まで彼は、トランスジェンダー女性は女性であるという主張を繰り返していた。

そしてこの5月に彼は、ここ1世代の期間にイギリスに人口動態の激変をもたらしてきた、開かれた国境という「実験」を終わらせることを約束した。これはもちろん、ブレア政権下で移民が急増して以降、何十年にもわたってイギリスの大多数が一貫して要求し続け、投票で意思表示し続けてきたことだ。

だから全体的に、スターマーがやると言ったことを実行に移し、イギリス世論に耳を傾けていることに、僕は敬意を表している。そしてまさにそれゆえ、多くの筋金入りの労働党支持者が彼に激怒している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国サービス部門の民間PMI、12月は半年ぶり低水

ワールド

金が1%超上昇、ベネズエラ大統領拘束受け安全資産に

ワールド

トランプ氏、ウクライナのロ大統領公邸攻撃「起きたと

ビジネス

米ブリッジウォーター、25年利益は過去最高 旗艦フ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 6
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story