コラム

英首相邸への放火はロシアの危険な新局面? いや、「原点回帰」だ

2025年06月04日(水)14時44分
放火されたスターマー英首相私邸前で警戒する警察官

放火されたスターマー英首相私邸前で警戒する警察官 TOBY MELVILLEーREUTERS

<たとえ本気で危害を加える気はなくとも西側の首脳を狙い、代理人を使って犯行に及ぶ......ロシアの関与が指摘されるこの事件は、過去のロシアの思考や手法と一致する>

イギリス当局は、スターマー英首相関連の物件で相次いだ3件の放火事件について、ロシアが関与している可能性を調査しているという。

真相は明らかではないが、今回の件もまた、「拡大傾向」で「深刻化する」ロシアの国境を越えた挑発と暴挙の一環だろうとの疑惑が広がっている。


ロシア工作員によるアレクサンドル・リトビネンコ暗殺、セルゲイ・スクリパリ暗殺未遂(どちらもイギリス領土でイギリス市民を標的にした!)、そして最近のエストニアやリトアニア、ドイツやその他ヨーロッパ各地でのロシアの関与が疑われる破壊工作......そして今度は英首相邸だって?

確かに、ロシアが何らかの形で関わっているとすれば、それは警戒すべき新展開の徴候だろう。第1に、(たとえスターマーや家族に本気で危害を加えるつもりではなく「嫌がらせ」や諜報活動の「攪乱」だけが目的だったとしても)西側指導者の1人を直接標的にしたことが挙げられる。特にスターマーは、欧州のリーダーとしてウクライナ支持で主要な役割を果たしている。つまり、ロシアの野望にとっては障害というわけだ。

第2に、「代理人」を使っていること。今回の事件で逮捕されたのは、2人の若いウクライナ人と1人のルーマニア人の男で、いずれも訓練されたロシアのスパイではなくイギリス居住者だった。

代理人の利用は既に周知の手法だ。2018年のスクリパリ暗殺未遂のロシア工作員の存在を暴いたブルガリア人の調査報道ジャーナリスト、クリスト・グロゼフを尾行し、誘拐を企てるなど英国内でロシアのためのスパイ活動を行ったとして、今年3月には6人のブルガリア人が有罪判決を受けた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

第3回ウクライナ・ロシア和平協議、23日トルコで実

ビジネス

NY外為市場=円上昇、ドルは国債利回り低下で軟調

ワールド

米中首脳会談、秋の開催巡り側近らが協議か=関係筋

ワールド

イラン、核濃縮を放棄できない=外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量のカギは「ホルモン反応」にある
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞の遺伝子に火を点ける「プルアップ」とは何か?
  • 4
    「死ぬほど怖かった...」高齢母の「大きな叫び声」を…
  • 5
    小さなニキビだと油断していたら...目をふさぐほど巨…
  • 6
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 7
    中国経済「危機」の深層...給与24%カットの国有企業…
  • 8
    日本では「戦争が終わって80年」...来日して35年目の…
  • 9
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 10
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 8
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story