コラム

英首相邸への放火はロシアの危険な新局面? いや、「原点回帰」だ

2025年06月04日(水)14時44分

スクリパリの暗殺未遂事件後、スパイ行為が疑われる数十人のロシア外交官がイギリスや他の欧州諸国から追放された。彼らの代わりにアマチュアが採用され、高度な機器を与えられて作戦実行を指示されたようだ――その成果はまちまちだったが。

このブルガリア人たちはグロゼフと同じ飛行機に乗り込み、彼を撮影し、携帯の暗証番号を入手し、毒殺計画を話し合った。裁判では、滑稽とも言えそうな一部始終が明らかにされた。


美容師の女が、インターポール職員を名乗る男にだまされ、二股交際されたうえにインターポールに協力して動いていると信じ込まされていたこと。その男は脳腫瘍を患っていると装い、手術後の包帯に見せかけるため頭にトイレットペーパーを巻いていたこと......。

恐れられているのは、手際の悪いアマチュアが暴走したり、「自発的態度」を見せて雇い主の関心を引こうと指示を大幅に逸脱したりするかもしれないことだ。

とはいえ、見方を変えれば、ロシアは危険な新局面に入ったのではなく「原点回帰」したとみるべきだろう。ロシアのプーチン大統領はKGB (国家保安委員会)出身だから、彼がソ連時代の同組織の精神を共有しているのは驚くに値しない。

例えば06年のリトビネンコ暗殺は、伝統的なロシアの論理(彼はロシア生まれであり、したがって彼が現在どの国のパスポートを所有していようと常にロシア人であり、ロシア政権に反抗した彼は裏切者であって正当な標的になり得る)に従っている。

彼がKGBの後身であるロシア連邦保安局(FSB)にいたという事実も、プーチンに背いた時の「裏切り度」を急上昇させた。同様にスクリパリも、かつてロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の大佐を務めていた人物であり、どの国に住んでいようと既に引退していようと、見せしめとされるに値する。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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