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「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド急増で踏み込む「二重価格」の危うさ

TOURISM GROWING PAINS

2026年1月24日(土)20時00分
深田莉映 (本誌記者)
国内外の観光客で混雑する伏見稲荷神社付近(京都市、25年11月) AFLO

国内外の観光客で混雑する伏見稲荷神社付近(京都市、25年11月) AFLO

<訪日外国人が過去最高を更新し続ける中、美術館や博物館の入場料を「外国人だけ高くする」二重価格が現実味を帯びてきた。混雑や迷惑行為への不満が強まるいま、受け入れ側が「線引き」に踏み込むのは自然な流れにも見える。だがそれは、観光立国を掲げる日本が積み上げてきた信頼を揺るがしかねない一手でもある。オーバーツーリズムの本質と、二重価格が孕むリスクを考える>


▼目次
日本は「インバウンド観光後進国」
観光客はただの金づるではない

外国人旅行者の勢いが止まらない。2025年の訪日外国人旅行者は4000万人を突破する見込みで、24年を上回り過去最高を記録。その陰で街中の混雑やポイ捨て、文化財への落書き、私有地への無断立ち入りなど彼らの行いが迷惑だという声も聞かれるようになっている。この、いわゆる「オーバーツーリズム」の本質とは何なのか。

観光客が増えれば経済効果が生まれる一方で、その弊害にさらされるのは常に地元住民だ、と言うのは、立教大学観光学部の西川亮准教授だ。

まず前提として、オーバーツーリズムの基準は「地元住民が不快と思うかどうかで、必ずしも定量的に把握できるものではない」と同氏は指摘する。例えば東京の満員電車と、観光客でにぎわう浅草の混雑と、急に写真スポットになった小さな街の一角の混雑は同じではない。観光客を受け入れるためのシステムや土壌が整っているかどうかも大きく関わる。

忘れられがちなのは、オーバーツーリズムは必ずしも外国人だけの問題ではないことだ。円安で外国人観光客が増えたと同時に、経済的にも海外旅行に行きづらくなった日本人の国内観光需要も、コロナ禍以降さらに高まっている。

人気観光地である京都市の発表によると、24年に同市を訪れた観光客数(日帰りを含む)は外国人が過去最高の1088万人だったのに対し、日本人は4518万人でおよそ4倍だった。ただし宿泊客数では、日本人が809万人、外国人が821万人でほぼ半々。外国人が上回ったのは1958年の統計開始以来初めてと、ごく最近のことでもある。

京都市の観光客は日本人が圧倒的に多い

確かに外国人観光客は増えているものの、西川氏は、日本は「インバウンド観光後進国」だと言う。政府主導のインバウンド政策が本格化したのはここ20年ほどにすぎない。90年代の円高で日本人の海外渡航者は年間1600万人を超えた一方、訪日外国人は500万人未満にとどまっていた。政策の狙いは、単に観光収入を増やすだけではなく、その差を是正することにもあった。また、観光を通じた地方の国際化も期待された。

高度経済成長期以降、日本の観光政策は一貫して日本人向けで、宿泊施設やサービスも国内客を前提としてきたため、観光の国際化においては後れを取っている。むしろ「外国人観光客慣れ」している東南アジア諸国のほうが言語やマナーの違いへの対応に豊富な経験を持っており、そうした国から学ぶ余地は大きい。

多様な国と文化圏の人々を受け入れる以上、それに見合ったルール設計と伝え方が求められる。西川氏は「いい意味でおせっかいになる必要がある。マナーを明文化するだけで防げるトラブルは多い」と言う。

世界最強レベルのパスポートを誇る日本だが、パスポート保有率は24年時点で17.5%と先進諸外国と比べてもかなり低い。「観光客として外国でおもてなしを受ける、あるいは言語や文化の壁にぶつかる。そういった経験が少なくなると、観光客を受け入れる一方的な立場でしか外国人を見られなくなってしまう」。政策決定の場ではなく、人々が直接接する一般市民の意識や経験も、観光の質を左右する大きな要素だ。

西川氏は、SNSなどで近年問題視される観光客の迷惑行為について、日本人自身も同じ道を歩んできたと指摘する。円高を背景に海外旅行が急増した80年代以降、日本人の団体ツアー客は訪問先で騒音やマナー違反を繰り返し、現地で批判の対象となっていた。

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