コラム

移動手段の生涯計画が必要な時代に「モビリティ教育」を

2022年01月14日(金)18時25分
田舎 自転車

いつか運転免許を手放す日のことを想定して(写真はイメージです) D76MasahiroIKEDA-iStock

<公共交通の乏しい地域で、クルマを手放したら暮らしはどうなる? 来たる免許返納に備え、自身の暮らしと移動手段について考える機会が必要だ>

公共交通が充実していない地域でも、前向きに免許を返納することができ、スムーズに新しい生活へと移行できるようにならないだろうか。一人ひとりが一生涯のモビリティについて考え、街ぐるみで取り組む「モビリティ教育」が待望されている。

自動運転は万能薬ではないという現実

少しずつではあるが、バスやタクシーが苦手とする近距離の地域内移動などに、"公共交通としての自動運転サービス"が活用され始めている。

2020年には、電動カートを用いた自動運転サービス開始のいくつかの事例が、東北から沖縄にわたって報告されている。また11月からは、国内で初めて自動運転用に開発された専用車両(乗車定員11名)を定時・定路線での生活路線バスとして走らせるサービスを、茨城県境町が始めた。

kusuda220114_mobility2.jpg

茨城県境町(筆者提供)

自動運転の研究を官民の壁を越えて進めているのがSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/自動運転(システムとサービスの拡張)だ。その研究開発計画(2021年5月26日)によると、2022年のうちに限定地域において遠隔監視のみの公共交通を実現させたいというロードマップを描いている。

一方、東京2020パラリンピックの選手村では、視覚障害のある日本代表の柔道選手に自動運転バスが接触し、欠場させる事故が発生した。公共交通として自動運転サービスを展開する上での課題も見えてきた。

公共交通としてではなく、マイカーとして自動運転車両を保有したいと思っている人も多いだろう。

SIPでは、一般道での安全運転支援の高度化、高速道路での完全自動運転(SAE[アメリカ自動車技術協会]の自動運転レベル4)の実現を、2025年を目途に掲げている。高速道路では理想とするものに近づきつつあるが、一般道ではハードルが高いようだ。また自分が運転しなくても走行してくれるようなシステムを搭載した車両の価格は、手の届く価格帯に下がるまでに多くの年月を要するだろう。

今日に生きる私たちは、生涯マイカーで移動し続けることはできない。やがて免許返納に直面すると思っていた方が現実的だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story