コラム

高齢者・子どもの送迎で消耗する働き盛り世代──限界寸前の「家族タクシー」の実情

2020年12月23日(水)13時00分

家族タクシーの常態化が、働き手不足に拍車をかけている(写真はイメージです) recep-bg-iStock

<習い事や塾、さらには通学まで──。公共交通の脆弱な地域では、高齢者だけでなく、子どもの移動も自動車ありきなところが多い。そのしわ寄せを受けるのは、生計を支える働き盛りの家族だ>

クルマ以外の移動手段がないために生活が成り立たなくなるのは、免許を返納した高齢者だけではない。その家族の暮らしもまた脅かされている。

特に公共交通が脆弱な地域では、「家族タクシー」が常態化している。家族タクシーとは、家族による送迎のことだ。

2016年に長野都市圏総合都市交通計画協議会が実施した交通実態調査によると、85歳以上の約25パーセント、70代の約20パーセントが家族タクシーに頼っている。

クルマを運転できる家族が、運転できない高齢者の買い物や通院に付き添っている。通院となれば、複数科の受診などで丸一日時間を費やす場合があり、会社を休む必要も出てくる。家族が多い場合は当番制で通院に付き添うことができるが、それでも担当の日には会社を休まなければならない。仮に家族も高齢者だった場合は、自分自身の病気の通院もあり、負担が増していく。祖父母の送迎や介護のために孫が仕事を辞めてしまったケースもある。

お互いにストレス

玩具メーカーのバンダイが2019年6月に行った調査では、63.4パーセントの子どもが習い事をしており、小学校入学前でも実に約5割が習い事をしていることが判明した。

子どものプールやピアノ、学習塾といった習い事への親や祖父母による送り迎えは、ずいぶん昔から一般的になっている。さらには、学校の通学まで父兄や祖父母が担うのが当たり前という地域もある。

ある地方都市では、通学目的の自家用車のトリップ数が過去16年で4倍に増加し、それだけ学校への送迎が増えているという。ある教育関係者は「徒歩や自転車で通学する子どもがどんどん減っている。校門の前で父兄のクルマが列をなして並んでいる」と語る。

高齢者の家族タクシーの場合、送る家族も頼む高齢者も大きなストレスを抱えている。少し前のデータになるが、2006年に岩手県立大学名誉教授の元田良孝氏らが行った「送迎者、被送迎者間の心理的関係と公共交通利用による健康への影響」によると、送迎を依頼するときに送迎を依頼する側の51パーセント、依頼される側の38パーセントがストレスを感じている(この調査の場合、約80パーセントが家族対象)。

依頼する側のストレスの内容は、「自分が自由な時間に移動できない」「相手に気兼ねする」「費用を気にする」「交通事故が怖い」。一方、依頼された側のストレスは、「自分の時間が拘束される」「交通事故が怖い」「ガソリン代を気にする」となっており、どちらも「時間の拘束」が最大のストレスとなっている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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