コラム

高齢者・子どもの送迎で消耗する働き盛り世代──限界寸前の「家族タクシー」の実情

2020年12月23日(水)13時00分

こうしたことから、家族タクシーであっても金品のやりとりが行われ、送迎される側の約40パーセントが何らかのお礼を渡していると報告されている。お礼の金額は、最小200円、最大1万円で、最頻値は1000円だ。

「申し訳ない(世話になった、迷惑をかけている=あなたの貴重な時間を奪っている)」という気持ちがアンケートに表れているのではないか。一回お金を渡すとその金額でその後の家族タクシーの金額が決まってしまい、家族関係が悪くなることもある。

送迎にかけている時間は莫大で、片道数十分は当たり前だ。地方都市では道路網が脆弱で、一般道すら渋滞する地域もある。渋滞による経済的損失が報告されているが、それは送迎する家族の経済的損失とイコールだ。

また大和総研の介護離職の現状と課題(2019年)によると、介護や看護のために離職する介護離職が2017年は約9万人で2007年頃と比較して2倍に増えている。最近の傾向としては、40~50代の正規雇用者の離職が目立つ。

クルマを運転できなくなった母を送迎するために会社を休んだり、勤務時間を短縮せざるを得なくなった人の話を耳にする。ただでさえ少子高齢化による人手不足や女性の社会進出が叫ばれているにもかかわらず、家族タクシーのために自分の自由時間を奪われ、企業にとっては働き手不足に拍車がかかり、生産性の低下から地域経済の地盤まで沈下させてしまいかねない。

地域の足は限界寸前

家族のかたちは田舎でも変化し、以前はよく見られた祖父母、父母、子どもで住む三世代家族も減りつつある。一度学校や仕事の都合で家を出た子どもはなかなか戻って来ることがなく、夫婦2人世帯や後期高齢者の単独世帯が増加している。寿命が延びたことや、家や結婚に対する意識の変化、経済的な自立や個々人の自由を尊重するといった社会変化が背景にある。今後、家族タクシーを頼ろうにも頼れない高齢者が急増することだろう。

家族タクシーだけに頼った送迎はそろそろ限界を迎えようとしている。

このように高齢者や子どもの移動の問題は、彼らだけでなく、その家族や地域経済の問題でもあり、問題解決が急務だ。

高齢者や子どもを送迎するサービスづくりはこれまでにも数多く試みられてきたが、うまくいっているケースが非常に少ない。既存の枠組みや発想では問題は解決できないが、企画提案力の乏しい地域が多い。民間企業の斬新な発想を取り入れ、活性化を遅らせている社会の仕組みを変革する必要があるのではないだろうか。

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プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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