コラム

「EV後進国」日本の潮目を変えた新型軽EV 地方で売れる理由は?

2022年07月19日(火)20時25分
軽自動車タイプのEV

蓄電池としても活用できるため、EVが普及することで災害の強い地域に(写真はイメージです) AlessandroPhoto-iStock

<5月に発表された「日産サクラ」と「三菱ekクロスEV」の販売台数が目標を大きく上回っている。EV普及を加速させる「軽自動車タイプ」の魅力とは>

「EVは矛盾している」

節電の要請、電気代の高騰、原発の再稼働、航続距離の短さ、車両価格──「これからはEVだ」とニュースでよく聞かれるが、日本でのEVに対するイメージは決して良いものではない。筆者もそう思っていたが、今月行われた三菱自動車「三菱ekクロスEV」と日産自動車「日産サクラ」の試乗会で、否定的な考えは払しょくされた。

急坂、高速道路も楽々

今年5月20日、日産自動車と三菱自動車は軽自動車タイプのEVを発表し、受注が始まった。三菱と日産は(仏ルノーを含めた)アライアンスを組んでおり、「三菱ekクロスEV」「日産サクラ」は共同開発された兄弟車になる。

試乗は横浜で指折りの急坂や首都高速などで行われた。地蔵坂は、自転車では登り切れないだろうし、ガソリン車やハイブリッド車であれば信号待ちで止まっているのがつらいほど。軽自動車が急坂で発車する際には、ブレーキからアクセルにペダルを踏みかえる間に後ろに下がってしまったり、踏み込むときのエンジン音が大きくなってしまう。しかし、軽EVは踏み込んだ時の力がガソリン車の約3倍あるため、平地の道路と同じ感覚で運転することができた。

交差点の右左折時も同様で、交差点の真ん中で反対車線のクルマの流れが途切れるのを待ち、素早くハンドルを切って発車することができた。反応が良く、思った通りに動いてくれるのがEVの特徴だ。

また、バッテリーを搭載していて重厚感があるため、高速道路を走っていても風に飛ばされるような感覚はなかった。従来の軽自動車であれば、アクセルを強く踏み込み、大きなエンジン音を立てながら、普通自動車や大型トラックに負けないように注意するなど、いくつもの不安を抱えながら走行しなければならなかった。まさに軽自動車に乗っていることを忘れる体験だった。

試乗会を通して、過酷な道路環境ほど軽EVの良さが際立ち、運転の苦手な人、女性や高齢者にも向いていると感じた。運転が得意ではない筆者も、ドライブを楽しむことができた。

軽自動車の利用機会としては、日々の通勤、買い物、送迎などが想定される。1日の走行距離が20km程度で、家の駐車場に停めている時間の方が長いという人も多いだろう。そのため、航続距離の問題はあまり気にする必要はない。

運転しやすい上に楽しく、スマホのように自宅で充電もできるところが軽EVの魅力だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story