コラム

「EV後進国」日本の潮目を変えた新型軽EV 地方で売れる理由は?

2022年07月19日(火)20時25分

軽自動車は日本の新車販売台数の約4割に上り、特に1人1台の所有が一般的な地方都市で重宝されている。EVはマンションやアパートなど集合住宅在住者にとっては使いづらいものとされているが、一軒家に住むドライバーには大きな問題ではない。自宅で充電が可能な200Vの普通充電器の設置工事は5万円程度でできる。

電池残量ゼロの状態から満充電にするのに約8時間、これで180kmの走行が可能になる。1日20km未満の走行距離の人が多いことを考えれば、1回の充電で1週間走らせることもできる。

1kWhで9km走るeKクロスEVの電気代を30円/kWh、1Lで19.2km走るeKクロスターボの燃料代を170円/Lで試算した場合、1kmあたりの燃料(電気)代はeKクロスEVが約3.3円/km、eKクロスターボは約8.9円/kmとなる。差額は約5.6円で、EVの方が安い。

EVは蓄電池としても使うことができるため災害時の備えにもなる。多くの人が給電できるEVやHVに乗っていれば、災害時に強い地域ができる。電気の地産地消による地域経済の活性化の動きにも注目していきたい。

他の軽自動車と変わらない価格帯

しかし、なぜこのタイミングで軽自動車のEVを販売することになったのか。

三菱自動車は2009年に軽自動車EV「アイ・ミーブ」を発売し、その後も軽バンタイプの「ミニキャブ・ミーブ バン」、軽トラタイプの「ミニキャブ・ミーブ トラック」を販売してきた。国内ではSUVなどの大きなクルマはプラグインハイブリッド(PHEV)、軽自動車のような小型車はバッテリーEVが当面の最適解と考え、今回の新型軽EV発売に至ったという。

手ごろな価格で販売され、インフラ整備の後押しもあり、消費者が一般的な軽自動車と同じ感覚で購入できるようになってきている。

アイ・ミーブ発表時の車両本体価格は459.9万円(税込)だった。補助金139万円が交付されても、実質購入金が320.9万円からと高額だった。一方、eKクロスEVは239.8万~293.26万円(税込)で、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金を使えば184.8万円(税込)と、他の軽自動車と変わらない価格帯で購入することができる。(日産サクラの車両価格は233.3万円~294万円)

またゼンリンによると、充電器数(急速充電器と普通充電器の数)は2013年3月末時点では7366基だったが、21年3月末時点では29233基とインフラ整備が進んでいる。出先での充電の不安も着実に減ってきているようだ。

三菱のアイ・ミーブは世界初の量産EVとして発売され、新しいものに興味関心の高い層に支持された。一方、eKクロスEVは補助金を利用すると手ごろな価格で購入でき、充電環境も拡大してきたことから、約1カ月半で4500台以上を受注した。これは、過去の他のEVのときには見られなかった反応だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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