コラム

コロナ不況を乗り切るカギ? 韓国で「ベーシックインカム」導入論が盛んに

2020年08月06日(木)15時30分

一方、李在明知事は、今年の6月20日に出演したテレビ番組(MBC、100分討論)で、5月に支給された緊急災難支援金により、消費が増え伝統市場を含めた地域経済が活性化したことを成功例として挙げながら、ベーシックインカムの導入の必要性を主張した。彼は、今後、「青年基本手当」の適用対象を京畿道のすべての住民を対象に拡大した後、将来的には韓国国内のすべての人々に定期的に一定金額の手当を支給したいという意向を明らかにした。具体的には最初は1年に2回程度、すべての国民に一定金額を支給した後、段階的に支給回数や支給金額を増やし、将来(10~15年後)には増税分を財源に一人当たり実質月50万ウォン(約4万4500円)程度のベーシックインカムを支給することが望ましいと主張した。この金額は上記で言及した国民基礎生活保障制度の1人基準生計給付額52万7158ウォン(約4万7000円)に匹敵する金額である。2019年の人口約5200万人を基準に計算すると、必要財源は年間312兆ウォン(約27.8兆円)に至る。ちなみに、312兆ウォンは2020年の政府予算の約6割に該当する金額である。

保守派も最低所得保障を検討

保守系の最大与党である「未来統合党」もベーシックインカムの導入に積極的な立場を見せている。未来統合党の金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員長は、7月14日に開かれたフォーラムで「4次産業革命により、仕事が多くなくなる時期に備え、市場経済を保護しながら市場での需要を持続させるためには所得を国民に支給することがベーシックインカムの本来の概念である」と主張した。しかしながら、「今すぐ推進することは難しく、すべての国民に同じ金額を支給することも現実的に不可能である......まずは低所得層中心に支給すべきだ」と与党や李在明知事の主張とは距離を置いた。

保守系の呉世勲(オ・セフン)前ソウル市長は年間所得が一定基準を下回る世帯に対して、世帯の所得に合わせて差等的に不足分を現金で支給する「安心所得制」の導入を提案している。安心所得制は、ノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンの「負の所得税」を参考にしたもので、労働などにより当初所得が多いと給付後世帯所得も多くなるように設計されている。例えば、基準額を年6,000万円に設定した場合の世帯所得別給付額や給付後世帯所得は次の通りである。

「安心所得制」の例(4人世帯、基準額6,000万ウォン基準)
kimchart2jpeg.jpg

一方、ベーシックインカムの導入に反対する声もある。延世大学のヤンゼジン教授は7月21日開催されたベーシックインカム関連フォーラムで「ベーシックインカムでは貧困の死角地帯を解消することも所得を保障することも難しい。韓国の福祉国家の発展は社会保障を強化することで解決すべきである...単純に福祉支出を増やすより福祉を必要とする人に支給することが重要である」とベーシックインカムの導入に反対の意見を表明した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税の影響、かなりの不確実性が残っている=高田日

ワールド

タイ経済成長率予測、今年1.8%・来年1.7%に下

ワールド

米、半導体設計ソフトとエタンの対中輸出制限を解除

ワールド

オデーサ港に夜間攻撃、子ども2人含む5人負傷=ウク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story