コラム

コロナ不況を乗り切るカギ? 韓国で「ベーシックインカム」導入論が盛んに

2020年08月06日(木)15時30分

緊急災難支援金が支給されて以降、ベーシックインカムに対する韓国国民の関心も高まっている。大手世論調査機関のリアルメーターが6月5日に全国の満18歳以上の成人500人を対象にベーシックインカム導入の賛否について聞いたところ、回答者の48.6%が「最低限の生計保障のために賛成する」と答え、「国家財政に負担になり税金が増えるので反対する」(42.8%)を上回った。

韓国でベーシックインカムの導入に最も積極的な立場を見せているのは進歩系の京畿道の李在明(イ・ジェミョン)知事である。彼は京畿道の城南市長に在任していた2016年に城南市に居住している満24歳のすべての若者に四半期ごとに25万ウォン(約22,200円)の地域通貨(1年に4回、合計100万ウォン)を「青年配当」という名前で全国で初めて支給した。当初は満19~24歳の若者を対象に支給する計画であったものの、予算上の問題もあり対象者を満24歳の若者だけに限定した。さらに、2018年6月に京畿道知事に当選した彼は、城南市で実施した「青年配当」を「青年基本手当」という名前に変更し、2019年から京畿道の24歳の若者に支給した。

条件を完全に満たすには

但し、城南市や京畿道で支給された「青年基本手当」をベーシックインカムと言うのは難しい。そもそも、ベーシックインカムは、個人単位に支給される「個別性」、すべての人に支給される「普遍性」、働くことを条件としない「無条件性」、一時ではなく定期的に支給される必要がある「定期性」、現金が支給される「現金支給の原則」、生活に十分なお金が支給されるべき「十分性」を条件としている。この点を考慮すると、城南市や京畿道の「青年基本手当」は、対象を満24歳に限定したこと、現金ではなく限定された地域だけで使える地域通貨が支給されたこと、そして生活に十分な金額が支給されていないことから、ベーシックインカムの「普遍性」、「現金支給の原則」、「十分性」を満たしていない。特に、「十分性」が大きく欠如している。1年間100万ウォンは1ヶ月で約8万9000ウォン(約7,920円)であり、国民基礎生活保障制度(韓国版の生活保護?)の1人基準生計給付額52万7158ウォン(所得と資産を所得に換算した金額の合計が0である時の給付額、約4万7000円)を大きく下回っている。

世帯人員・給付別「国民基礎生活保障制度」対象者の所得基準(2020年)
kimchart1jpeg.jpg
出所:保健福祉部.2020.「2020年国民基礎生活保障事業案内」を用いて筆者作成

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジャクソン米最高裁判事、トランプ大統領の裁判官攻撃

ワールド

IMF、中東・北アフリカの2025年成長率予測を大

ワールド

トランプ政権の「敵性外国人法」適用は違法 連邦地裁

ビジネス

伊藤忠商事、今期2.2%増益見込む 市場予想と同水
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story