コラム

1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きくて美しい」減税法案のツケとは【風刺画で読み解くアメリカ】

2025年07月03日(木)15時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2025 ROGERSーANDREWS McMEEL SYNDICATION

<減税をうたうけれど結局は上位数%の高所得者優遇が目立ち、国民からの借金は10年で2.4兆ドルとの概算も。トランプが推し進める「大きくて美しい」法案をアメリカ出身芸人のパックンが解説します>

One Big Beautiful Bill(OBBB)と聞いたら、大きくて魅力的なビルさんがまず思い浮かぶよね。スポーツファンなら、体が大きいNBAのビル・ラッセル。テック系なら、資産が大きいビル・ゲイツ。政治なら、きっと何かが大きいビル・クリントンかな?

しかし、これは人ではなくトランプ米政権が議会に提出した予算案の名前。しかも、通称や別称ではなく正式名称だ。まあ、名前は自由に付けられる。法案の狙いに相反するものでも。ブッシュ政権中に提出された、排ガスの規制を緩和し、空の汚れが悪化しそうな内容の法案がClear Skies Act(きれいな空法)と名付けられたように。


OBBBが大きいのは間違いない。バイデンが通したインフラ法案には5500億ドルの新しい歳出が含まれた。オバマの医療改革案はその倍。どちらも共和党は「公金の使いすぎ!」と激怒した。だがその共和党が今回下院で可決させたOBBBは、10年で3兆ドルもの支出を伴うのだ。しかもオバマやバイデンの法案は、債務を増やさないように税収増や歳出削減が含められた一方、OBBBはそれらがほとんどない。試算によると、10年で2.4兆ドルもの新たな借金を国民に負わせる見込み。後世にもBigなBill(大きな請求)が回ってくるってわけ。

法案の要点は減税だが、ほとんどの恩恵を受けるのは高所得者。減税の25%ほどが上位1%の高所得者に集中している。一方、低所得者は恩恵どころか損失を受けることになる。医療費補助や食料支援、子育て支援などが削減されるから。法案が通れば、1000万人以上が医療保険を失う見通しだ。勝ち組がさらに勝つ! それ以外の方はとにかく病気になったり、おなかをすかせたりしないようにしようね。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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