コラム

韓国では65歳、日本では70歳、定年延長の議論が本格化

2019年07月18日(木)13時00分

日本と韓国、高齢化の悩みは同じ blew_i-iStock

<今後10年間で高齢化が急速に進む韓国では、2度目の定年延長を検討し始めているが、60歳定年の義務化は日本より約20年も遅れるなど実現までのハードルは高い>

最近、韓国社会でも定年延長に対する社会的関心が高まっている。韓国の洪楠基(ホン・ナンギ)副首相兼企画財政相(以下、洪副首相)は、6月2日、韓国KBSの番組に出演し、「定年延長問題を社会的に議論すべき時期だ...今後10年間はベビーブーマー(1955~1963年生まれ)世代が引退する時期であり、毎年約80万人が労働市場から離れることに対して、労働市場に入ってくる10代は年間約40万人に過ぎないので、労働市場の労働需要は大きく変化する」と言及した。

さらに、洪副首相は、「現在、韓国政府はこの問題を解決するために政府を挙げて人口政策タスクフォース(TF、作業部会)を設けて定年延長問題を集中的に議論しており、議論が終われば、政府の立場を示す」と述べた。

退社後は自営業で食いつなぐ韓国

但し、韓国では定年を延長したばかりであり、すぐさま定年を延長することはかなり難しいのが現状である。つまり、韓国では2013年4月30日に「雇用上の年齢差別禁止および高齢者雇用促進法改正法」(以下、「高齢者雇用促進法」)が国会で成立したことにより、2016年からは従業員数300人以上の事業所や公的機関に、さらに2017年からは従業員数300人未満のすべての事業所や国、そして地方自治体に60歳定年が義務化されている。

日本では1994年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」)の改正により1998年から60歳定年が義務化されたことに比べると、60歳定年の義務化は約20年も遅れている。

韓国では「高齢者雇用促進法」が施行される前には定年が法律により義務化されず、50代前半や50代中半に退職するケースが一般的だった。そこで、会社を辞めた後には、年金を受給するまでの生活費を稼ぐためにチキン屋やベーカリー等、家族で営む自営業を始める人が多かった。このような影響もあり、韓国における自営業者の割合は2018年時点で25.1%に達している。

図表1 OECD加盟国における自営業者の割合
OECD190718_01.png
注)2018年のデータを提供している加盟国のみ比較
資料)OECD Dataにより筆者作成

韓国より先に少子高齢化を経験し、定年延長を推進した日本でも最近、定年延長が再度議論され始めている。日本では2013年に「高年齢者の雇用の安定等に関する法律」(以下、高年齢者雇用安定法)が施行され、公的年金の支給開始年齢の引上げに合わせ、経過措置として2013年~2025年までに、3年ごとに1歳ずつ定年の年数が増加する措置が取られている。

2025年になると65歳定年が義務化され、韓国より定年が5歳も高くなる。さらに、日本政府は最近70定年延長をめぐる議論を本格化している。日本政府は今年の5月15日に開催された未来投資会議(議長・安倍首相)で、希望する高齢者に対し70歳までの雇用確保を企業に求める高年齢者雇用安定法の改正案の骨格を示した。

現行法では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項に基づき、定年を65歳未満に定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、1)定年制の廃止、2)定年の引上げ、3)継続雇用制度(再雇用制度)の導入のうち、いずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施することを義務化している。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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