コラム

ロシアの潜水艦が米国の海底ケーブルの遮断を計画?

2015年10月27日(火)17時10分

ロシアの潜水艦が米国の海底ケーブル周辺をウロウロしていた。 写真は2009年のもの Alexander Zemlianichenko-REUTERS

 10月25日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアの潜水艦が米国の海底ケーブル周辺をウロウロしており、ロシアが通信網の遮断を計画している可能性があると報じた。

 現在の国際通信の95%は海底ケーブルを通じて行われている。島国の日本の場合は99%に達する。人工衛星は特定用途に特化しており、一般の通信はほぼ通らないといって良い。上空36,000kmの静止軌道まで往復しているのでは時間がかかりすぎ、リアルタイム性を求める現在の通信需要には合致しないからである。光ファイバーが入った海底ケーブルが通信の主役を担っている。

 海底ケーブルへの依存が深まれば深まるほど、インフラストラクチャとしての重要性も増してくる。たいていの場所で海底ケーブルは複線化が進んでおり、別ルートによる冗長性も確保されている。1本しかつながっていない離島でもない限り、1本や2本切れたとしても、ウェブや電子メールにはほとんど影響は出ないだろう。

海底ケーブル事故

 実際、日本でも世界でも、海底ケーブルはかなりの頻度で切れている。その多くは漁網と錨による事故である。海底ケーブルが敷設されているところでは漁業をしないように通信事業者が漁師に補償金を払っている場合もある。しかし、底引き網が引っかかったり、重い錨が直撃したりするとケーブルは切れる。

 さらには、天災でも切れる。2006年の台湾沖の地震や、2011年3月11日の日本の地震でもケーブルは複数の場所で切れた。東日本大震災のさなか、携帯電話がつながらなくても、ソーシャルメディアで連絡がとれたという人も多いだろう。しかし、海底ケーブルがもっとたくさん切れていれば、サーバーのある米国まで通信トラフィックは迂回しなくてはならず、混雑も引き起こすので、通信ができなくなる可能性もあった。

 こうした問題を回避するため、KDDIが中心となって敷設した新しい太平洋横断海底ケーブルFASTERでは、千葉県の千倉と三重県の志摩の両方に陸揚げをしている。関東、関西いずれかで大きな自然災害があってもつながるようにしておくためである。

海底ケーブルの意図的な切断

 事故ではなく、意図的に海底ケーブルが切断されることはあるのだろうか。歴史上、そうした実例はいくつかある。

 1904年、日露戦争に際しては、旅順を封鎖するため、ロシアが敷設していた海底ケーブルが日本軍によって切断されている。1914年に第一次世界大戦が勃発した際には、ドイツにつながる海底ケーブルが切断された。

 第一次世界大戦後、南洋群島と呼ばれた太平洋島嶼地域には、ドイツが敷設した海底ケーブルが残っていた。ドイツ敗戦によって南洋群島を国際連盟の委任統治領とした日本は、ドイツの海底ケーブルを南洋統治に使っていたが、そのケーブルも第二次世界大戦の戦火の下で切れてしまい、パラオはそれ以来いまだに海底ケーブルがつながっていない。

 近年では、エジプト周辺で海底ケーブルが切れる事例が頻発していたが、2013年に切断に関わっていたと見られる3人が捕まっている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベトナム、26年は10%成長目標に 外的圧力でも勢

ワールド

高市氏に1回目から投票、閣外協力「逃げ」でない=維

ビジネス

中国GDP、第3四半期は前年比+4.8% 1年ぶり

ワールド

トランプ氏「大規模」関税続くとインドに警告、ロ産原
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story