コラム

「まだやってるの?」...問題は「ミス日本」が誰かではなく、時代錯誤なこと

2024年02月05日(月)13時50分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
ミス日本

椎野さん(中央)と今年のミス日本の受賞者たち MISS JAPAN ASSOCIATIONーHANDOUTーREUTERS

<どんなに「内面の美」を含めた「総合的な美しさ」を強調しても、最終審査に残る人の中に背の低い人や太った人はいない。いつまで容姿を競って順位をつけるのか?>

今年のミス日本コンテストで、椎野カロリーナさんがグランプリに選ばれて話題となった。

彼女はウクライナ人の両親の元に生まれたので、いわゆる「ハーフ」ではない。見た目は日本人に見えないが、5歳から日本で暮らしてきたので当然日本語はネイティブで、日本国籍も得ている。SNSでは受賞を喜ぶ声の一方で、日本人らしくないなどと攻撃する投稿も見られた。

私も日本国籍を取得しており、いわゆる日本人には見えない日本人だ。私と同じようなマイノリティーの日本人がミス日本になったことは、個人的に喜ばしく思う。CNNなど海外メディアも、移民が少なく「均質的」な日本でヨーロッパにルーツを持つカロリーナさんが選ばれたことを、驚きを持って報じた。

日本の多様性を海外にアピールするには、期せずしていい機会になった。だが、このニュースを見た私の最初の感想は「ミスコンってまだやってるの?」だった。

私の生まれた国イランでは、ミスコンテスト(ミスコン、ビューティーコンテスト)は禁止である。

ウチの町のかわいい娘を選ぶ、といったお祭りの余興くらいのものはあるだろうが、大きなステージで露出度の高い衣装を着て大々的にテレビ中継もあるようなミスコンは、イラン革命後の政府下では存在しない。女性が肌や髪を必要以上に露出させるのがタブーとされているせいだ。

それに比べると、ミスコンのある国は女性が自由な社会という一般的な認識もあっただろう。出場する女性たちには、自立、自己アピール、男性より一歩下がっているのが良しとされた存在からの脱却、というイメージがあったからだ。だがそれもあくまでも過去の話だ。

日本人女性がミスコンの世界大会で上位に選ばれ、日本人のスタイルも美貌も世界基準になった、などと誇らしげにメディアが報じたのは何十年前だっただろうか。ここ最近はミスコン自体が皆の興味を引くこともなく、時折「ハーフ」がミスコン日本代表になるときなどに話題になるだけである。

だいたい、多様性という言葉があふれ、容姿や年齢や人種で型にはめることをタブーとする現代社会において、ステージで女性(男性のミスターコンテストもあるが圧倒的に女性の大会が多い)に順位を付けることが、社会で広く好意的に受け入れられているとは到底思えない。

いかに出場者がボランティアやキャリアや勉学をアピールしようとも、また最近国内外でよく見られるように、大会側が容姿だけでなく内面も含めた総合的魅力を持つ人物を選ぶとうたおうとも、同じような身長とスタイルの人ばかりが最終審査に残り、そこに背の低い人も太った人も、性別を変更した人もハンディキャップのある人も居ない時点で、その大会は時代遅れで、どことなく物悲しい。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story