コラム

コロナ禍にみる、今年だけのNYクリスマス物語

2020年12月17日(木)17時40分

大江氏の自宅に殺菌スプレーを1本吹き掛けてから運び込まれたツリー SENRI OE

<クリスマスと言えばNYの風物詩だが、コロナ禍の今、ニューヨーカーはどう過ごしている? 大江千里氏が描く今年だけのホリデーストーリー>

11 月末の感謝祭を過ぎると、例年のニューヨークは一気にホリデーモードに突入し、浮足立った音と光が街中を覆う。だが今年はコロナ禍で、ブロードウェイやメトロポリタン・オペラもない。今回は2020年にしか見られない、素顔のニューヨークを描いてみようと思う。

今、コビッド(COVID-19)は隣にいる。街を歩く人たちはマスクをずらさず、これが命を救う鎧(よろい)だという認識が浸透している。一方で全くしない人も20人に1人ほどいる。ブルックリンの中でも僕が住んでいる地区は多様な人種が混在しているが、戒律の厳しいユダヤ人はマスクを一切しない。

街には「感染者」に数えられないコビッドたちがあふれている。病院に行くと、医療従事者がマスクの上にフェイスガードをダブルでしている。あ、また患者が増えた。眼鏡店や医療クリニック、薬局では無料のPCR検査が行われ、長蛇の列ができている。

コロナ禍での行政によるサービスは、ホームレスにも行き届いたようだ。地下鉄ではボロを着て缶を持ったホームレスが「プリーズ、ヘルプミー」と今にも倒れそうにしているが、僕はその人が5Gの新しいiPhone12を手元でチェックしているのを見た。

わが家から駅までの道端に寝ぐらを作って占拠していたホームレスたちは、一斉にいなくなった。彼らはラジカセを爆音にしたり、銀行やバーガーショップに入る人にドアを開閉して金を要求したりしていた。それが、近くに球場のスタンドのような照明が設置され、一晩中、全てが照らし出されるようになった。

コロナ禍では、人々の人間性も丸裸にされる。道路で渋滞が起きると、ストレスを解消するかのようにクラクションの音が炸裂する。わが家の窓の外では、40歳前後の小ぎれいな格好をした男性がブツブツ言いながら行ったり来たりしている。

突然キレて大声を上げ暴れるかと思えば、ストレッチを始めるなど、なんとも恐ろしい。洋服のコーディネートは毎日変わり、スニーカーの白のまばゆいこと。地下鉄でこの手の人が来ると僕は別の車両に乗る。いつ銃を出し乱射するとも限らないから。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story