コラム

「カリフォルニア大火災は左翼テロ」──陰謀論でトランプを後押しする極右

2020年10月05日(月)18時20分

また、トランプ支持が鮮明なFOXニュースが運営するネットニュース、Q13FOXはさらに具体的に「ワシントン州ピュアラップで36歳のアンティファの男性メンバー、ジェフ・アコードが逮捕された」と報じたが、これも当局によって否定されている。

アメリカ大統領選挙が本格化するなか、西海岸に広がるかつてない大火災を、アメリカ極右は政治的に利用しているようだ。

各種の世論調査でみる限り、選挙戦は混戦が続く。その最中の大火災の責任をアンティファに被せることは、最終的にはアンティファを「国内テロ」と呼ぶトランプ氏を後押しすることになる。

ロシアの選挙干渉か

マザージョーンズの取材によると、ネット上で拡散するこうしたフェイクニュースには、ロシアの関与も見受けられる。

「アンティファ放火説」がSNSで大量に出回り始める直前の9月9日、ロシア・トゥデイ(RT)は「オレゴン州ポートランドの警察署がアンティファメンバーに、山火事が広がっているので、デモなどで火を用いないよう求めた」と報じた。

ポートランド警察の発表そのものは事実だ。

しかし、この記事でRTは極右活動家として知られ、アンティファやBLMにも批判的なアンディ・ンゴ氏のツイートを再三引用している。ンゴ氏はポートランド警察の「デモ参加者には火の使用を控えるよう求める。最近の強い風と乾燥により、火は広がりやすく、多くの生命を脅かす」というツイートを「アンティファはこれを聞いてワクワクしていた」と引用リツイートしたが、RTはこれもそのまま掲載している。

ポートランド警察は「ワクワクしている」とは発言しておらず、ンゴ氏のツイートやそれをそのまま引用したRTの記事は控えめに言ってもただの思い込みで、よりはっきり言えば印象操作に当たる。

RTはロシア政府系メディアである。

2016年の大統領選挙でも、フェイクニュースを通じたロシアの干渉は指摘されていた。カリフォルニア大火災をめぐるRTの報道からは、今回もロシアがアメリカ大統領選挙に関わろうとしていることがうかがえる。

スケープゴートを求める人々

歴史上、権力者に批判的な人々への弾圧に、大火が口実として用いられた例は多い。

ローマ大火(64年)の後、信者を増やしつつあったキリスト教徒が犯人と決めつけられ、多くが処刑された。また、1933年のドイツ国会議事堂炎上は共産主義者の仕業と決めつけられ、その後のナチス支配を確立させる一歩となった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story