コラム

トランプとバイデンの限界を露呈した第1回大統領候補者討論会

2020年10月01日(木)11時05分
トランプとバイデンの限界を露呈した第1回大統領候補者討論会

泥仕合の中にも選挙キャンペーン上重要な要素が見えた...... Morry Gash/REUTERS

<トランプ・バイデン両候補者による第1回大統領候補者討論会が行われたが、今後の展開を示唆する選挙キャンペーン上重要な要素が見えた......>

9月29日に開催されたトランプ・バイデン両候補者による第1回大統領候補者討論会は候補者だけでなく司会者を巻き込む泥仕合となり、視聴する側としては見るに耐えかねる内容であった。しかし、そんな候補者討論会の中にも今後の展開を示唆する選挙キャンペーン上重要な要素があった。それはトランプ・バイデン両候補者の現時点での限界である。

トランプ大統領のブランディングがはっきりしていない

トランプ大統領は討論会中終始一貫してバイデン副大統領及び司会のクリス・ウォレスの発言に割って入る言動を続けていた。これは台本やシナリオを全く容易していないときのトランプ大統領のいつもの反応であり、そのこと自体は今更驚くべきことではない。ただし結果として、トランプ陣営には選挙キャンペーン上重要な要素がいまだに欠落したままであることが分かった。

それはトランプ大統領のブランディングである。もちろん、トランプはトランプであって今更ブランディングの必要があるのか、という声もあるだろう。しかし、選挙キャンペーン上候補者のブランディングは極めて重要である。

前回2016年の大統領選挙はMAGA(Make America Great Again)やアメリカ・ファーストという明瞭なキャッチフレーズ、そして反エスタブリッシュメント、反不法移民、反国際協定、反増税、反終わりなき戦争などの効果的な争点設計が打ち出されていた。一見して滅茶苦茶なトランプ大統領の言動も実は一つの流れとして、対ヒラリーという文脈でしっかりと設計されていた。トランプが選ばれた理由は少なくともトランプに投票した人々にははっきりしていたものと思う。

しかし、今回2020年大統領選挙ではトランプ陣営に明確なキャッチフレーズはなく、次々と変わる社会状況や拡大する接戦州を受けて、「トランプ大統領は再選して何をするのか」という説得力があるメッセージを有権者に伝えきれていない。討論会中、唯一聴衆の心を引き寄せたと思われる内容は「法と秩序」のメッセージであるが、それが選挙全体を貫くコンセプトになっているとは言い難い。つまり、自己ブランディングの達人であるトランプが最も得意とする能力を十分に発揮できていないのだ。このことは現在のトランプ苦戦の最大の要因の1つとなっていると思う。

バイデン元副大統領次男の疑惑は払拭されず

一方、バイデン元副大統領にとっては、討論会のパフォーマンスを通じて共和党側のネガティブキャンペーンである健康不安説を払拭できたことは大戦果だ。大統領候補者として何とも低い目標であるが、バイデン陣営にとっては何物にも代えがたいものだろう。

ただし、バイデン元副大統領は次男であるハンター・バイデンの疑惑について明確に答えることができていなかった。トランプ大統領が指摘したハンターのロシアや中国との不明瞭な資金の流れに関する疑惑は、連邦上院議員によって正式に報告書として提出されて指摘されているものだ。たしかに、同報告書だけで正確な裏付けがあるスキャンダルだと断定できないが、バイデン元副大統領はそれが「事実ではない」と否定するだけでは根拠として弱い。トランプ大統領であればリベラル系の大手メディアからの100%袋叩きにされる事案である。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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