コラム

「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」スウェーデンのマリとの決裂に他の先進国が続かない3つの理由

2024年08月14日(水)20時40分
モスクワで行われたワグネルの合同慰霊祭

モスクワで行われたワグネルの合同慰霊祭(8月4日) Yulia Morozova-REUTERS

<スウェーデンの対応は冷戦時代であれば珍しいものではなかったと言えるが...>


・西アフリカのマリがウクライナ侵攻で先進国の立場に賛同しないことなどを念頭に、スウェーデンの大臣が援助停止を示唆した。

・これをきっかけにマリは駐在大使の国外退去に踏み切ったが、他の先進国の間にスウェーデンを擁護する兆候はない。

・そこには主に三つの理由がある。

1. 「反抗的な国」に対する援助停止は、現代の世界において効果がほとんどないどころか、自分の首を絞めかねない

2. ウクライナがマリで「イスラーム過激派を支援している」疑惑が濃い

3. スウェーデンの政府・与党にとって、ムスリムが圧倒的に多いマリとの決裂は、イスラーム嫌悪に傾いた支持者向けのアピールとしての意味が強い

"ロシアの拠点"を巡る火花

西アフリカ、マリの軍事政権は8月9日、同国に駐在するスウェーデン大使に対して、72時間以内に退去するよう命じた。

アフリカ大陸とマリの位置

大使の国外退去は外交的にはかなり強い意味があり、断交に次ぐレベルといえる。

そのきっかけは8月7日、スウェーデンの国際開発協力担当大臣ヨハン・フォルセルがXに「ロシアによるウクライナへの侵略を支持しながら、我々から毎年何億クローナも援助を受け取るな」と投稿したことだった。

国連総会で2022年3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻の非難決議が採決された時、マリはこれを欠席した。

また、イスラーム過激派によるテロが増加するなか、ロシアの軍事企業ワグネル(現在はアフリカ軍団と改称)と契約してその鎮圧にあたっている。

マリはいわば、ロシアのアフリカ進出の一つの拠点とみられている。

そのためスウェーデン政府は以前からマリとの関係を縮小し始めていた。6月には「在マリ・スウェーデン大使館の年内閉鎖」が発表されていた。

スウェーデン大使の国外退去処分は、こうした外交的緊張の延長線上にあるもので、突然発生したものではない。

ウクライナが落とす影

ただし、緊張がいきなり高まった一つのきっかけは、マリが8月5日、ウクライナと断交したことだった。

マリ政府は「マリ北部の分離主義者や過激派をウクライナが軍事援助している」と批判し、「国家の主権を侵害するもの」として外交関係を断絶したのだ。

マリ北部では以前から武装組織の活動が活発だったが、7月末の戦闘ではマリ軍とロシア兵100人以上が殺害された。

これに対して、ウクライナ政府はマリ北部での軍事活動を否定し、断交の決定を"短視眼的"と批判している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米HPが3年間で最大6000人削減へ、1株利益見通

ビジネス

米財政赤字、10月は2840億ドルに拡大 関税収入

ビジネス

中国アリババ、7─9月期は増収減益 配送サービス拡

ワールド

米陸軍長官、週内にキーウ訪問へ=ウクライナ大統領府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story