コラム

中国出身テロリストがシリア軍幹部に抜擢──それでも各国が黙認する理由

2025年05月26日(月)17時45分
アル・シャラ暫定大統領と米トランプ大統領

シリアのアル・シャラ暫定大統領と面会する米トランプ大統領。サウジアラビア政府の仲介で実現(5月14日、サウジアラビア・リヤド) Saudi Press Agency/Handout via REUTERS

<アメリカはシリアに対する1970年代以来の制裁を事実上解除し、中国も暫定政権との間で投資・貿易などに関する協議を進めている>


・昨年12月に首都を陥落させ、実権を握ったシリア暫定政権は、軍の新幹部に数多くの外国人戦闘員を抜擢し、そのなかには中国出身者も含まれる。

・シリアの外国人戦闘員は2012年以降、世界各地から集まったイスラーム過激派で、アル・シャラ暫定大統領もサウジアラビア出身である。

・しかし、米中をはじめ各国はそれぞれの理由からシリア新体制との関係を優先させているため、外国人戦闘員の問題を実質的には不問に付している。


中国出身テロリストの「昇進」

米トランプ大統領は5月14日、シリアのアル・シャラ暫定大統領と会談し、両国の関係改善を協議するなかで「外国人戦闘員の追放」を求めた。

フランス、ドイツなどヨーロッパ各国首脳も同様の懸念を示している。

シリアの外国人戦闘員とは何者か。


その象徴ともいえるのが通称ザヒード、本名アブドルアジズ・ダウド・フダヴェルディだ。

ザヒードは中国西部にある新疆ウイグル自治区出身の48歳。イスラーム過激派組織トルキスタン・イスラーム党(TIP)メンバーだ。

ウイグル人のほとんどはムスリムで、中国共産党体制に対する抵抗が根強い。その分離独立運動には平和的なものが多いが、一部はアルカイダなど国際テロ組織に結びついている。

中国は平和的な抵抗運動も含めてすべての反対派をテロリストとみなし、押さえ込んできた。習近平体制のもとでは多くのウイグル人を強制収容所に隔離するなど、取り締まりがエスカレートしている。

このウイグル自治区生まれのザヒードは昨年12月、シリア軍准将に任命された。

ザヒードだけではない

ただし、シリア軍の外国人戦闘員はザヒードだけではない。

その人数は定かでなく、1500~6000人程度とみられる。シリア軍全体に占める割合は大きくないが、比較的高い階級の者が珍しくない。英BBCによると、昨年12月に発表されたシリア軍の新幹部約50人のうち、少なくとも6人はザヒードを含む外国人で、いずれも出身国でテロリストと認知される者ばかりだった。

なぜ彼らはシリア軍幹部になれたか。その曰くはシリア内戦にさかのぼる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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