コラム

「コロナ前のように戻ることはない」鉄道各社の変革と2022年のMaaS展望

2021年12月28日(火)20時35分

中長期計画では、需要がコロナ前には戻らない前提でビジネスモデル変革が描かれ始めている。特に注目されるのは、「デジタル化」「パーソナライズ」だ。

以下に、各社の意向・取り組みを整理したい。

■JR東日本

デジタル時代を見越してコロナ前に策定したグループ経営ビジョン「変革2027」で、2025年度に向けた新たな目標として、運輸セグメントとそれ以外のセグメントの営業収益比率を「6:4」に設定し、近い将来には「5:5」の実現を目指すという。その一環として、交通系ICカード「Suica(スイカ)」を軸にし、個々人の移動ニーズに応じた情報・購入・決済をオールインワンで提供するモビリティ・リンケージ・プラットフォームや、沿線の各地域を活性化するために地元企業と連携してMaaSを実施している。2021年11月上旬から2022年3月31日まで東北エリアで試験的に「TOHOKU MaaS(とうほくまーす)」が提供されており、都内の車内広告などで見かける機会も増えた。

■JR西日本

デジタル技術を活用してさまざまな移動や生活サービスをシームレスに提供するMaaSアプリ「WESTER(ウェスター)」を、活発に移動する「Z世代」ら若年層に向けて訴求を図っている。 

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筆者撮影

■大阪メトログループ

2018〜2025年度の中期経営計画で、経営体質の強化(既存事業の強化)と事業構造改革(新たな収益モデルの創出と加速)の2軸を新たな経営全体の改革に掲げている。事業構造改革では、MaaSの推進強化やデジタルマーケティング推進を挙げ、大阪ならではの都市型MaaS構築を軸に成長する絵を描く。

■西日本鉄道(西鉄)

持続可能な交通ネットワークの実現に向けて、MaaSなど次世代モビリティの取り組み強化、次世代オンデマンドバス「のるーと」事業の展開、自動運転バス実証実験への参画を挙げている。

■小田急電鉄(小田急)

小田急は2026年度までに取り組むべき方向性を示した経営ビジョン「UPDATE小田急~地域価値創造型企業にむけて~」(2021年4月28日公開)の中期経営計画(2021年度〜2023年度)で、リアルのビジネスをデジタルで変革することを掲げている。スマホ用のMaaSアプリ「EMot(エモット)」を通じて、駅などリアルな場のみならず、マイカー利用者層にもアプローチしていく算段だ。

「デジタル化」や「パーソナライズ」も道半ば

公共交通のデジタル活用による利便性の向上について鉄道各社が力を入れるようになったのは2018年頃からだ。その発端となったのが、予約・決済・情報の統合をパーソナライズして移動をデザインするMaaSだ。欧米の動きを受けて日本でも取り組みが加速し、各社は試行錯誤を重ね、MaaSアプリも数多く誕生した。しかし、まだまだ道半ばという状況にある。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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