コラム

「日本人の責任とは思わない」の声もあるが...英史上最悪の「冤罪」事件、富士通の責任は?

2023年03月11日(土)14時53分

ソフトウェアの問題が支店の現金過不足を引き起こした

「私の見解では、ホライゾンのコーディングと開発は主要なソフトウェア・プロジェクトの品質への期待に応えるものではなかった。このシステムは決して日の目を見るべきではない非常に質の悪いシステムだった。準郵便局長がログオンしている間、私たちがシステムを変更したことを知らせないように指示された」(ロール氏)

「日常的に遭遇していたソフトウェアの問題は支店レベルでの勘定の不一致を引き起こす恐れがあり、実際に引き起こした。それは毎週のように起きた。私たちの作業の多くはホライズンにおけるコーディングの問題を解決するための消火活動だった。お金、富士通とポストオフィスの関係への影響。それにスタッフの数が足りなかった。これもお金の問題だ」(同)

富士通は1998年、ホライゾンを開発した英国企業ICLを完全子会社化した。ポストオフィス側の依頼でホライゾンの調査を担当した法廷監査事務所セカンドサイトのロン・ワーミントン社長は筆者に「正直に言って日本人に責任があるとは考えていない。責任は富士通UKの英国人にある。一晩で50万件もの修正が行われることが度々あった」と証言する。

元準郵便局長らの集団訴訟で2019年、ポストオフィスは元局長ら555人に対し5800万ポンドを支払うことで和解が成立。和解金の多くは訴訟費用に充てられ、元局長らが手にできたのはわずか1200万ポンドに過ぎなかった。一部、有罪判決が取り消され、ポストオフィスは1人10万ポンドを上限に補償に応じることを決めたが、すでに30人以上が他界した。

「富士通は弁護士の後ろに隠れるな」

この問題の主犯は欠陥だらけのホライゾンを訴追に使ったポストオフィスであることに疑う余地はない。英政府の対応や司法制度にも大きな問題がある。しかし法的な責任から逃れ続ける富士通は利益を優先させ、システム開発のリスクを何も知らない準郵便局長にツケ回した罪は重いと言わざるを得ない。706人もの冤罪は前代未聞のスケールだ。

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被害者の1人、ジョー・ハミルトンさん(筆者撮影)

公聴会を傍聴していた被害者の1人、ジョー・ハミルトンさんは筆者に「2週間前にも被害者の女性が亡くなった。こんなひどい目にあわされるのはもうたくさんだ。被害者1人ひとりに1日も早い補償が求められている。(富士通は)弁護士の後ろにいつまでも隠れていないで正しいことを行うべきだ」と訴えた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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