コラム

韓国の新たな「失われた世代」は救われるか

2020年10月16日(金)14時55分

マスクをして徴兵検査を受ける韓国の「コロナ世代」(ソウル、2月3日) Heo Ran-REUTERS

<若者は韓国の狭い雇用市場を嫌い、日本を含む海外で就職する傾向にあったが、新型コロナはその機会さえ奪ってしまった>

新型コロナウイルスによる不景気により、韓国に「コロナ世代」という新しいロストジェネレーション(失われた世代)が現れた。

韓国社会は今までも、不景気の影響からIMF世代、88万ウォン世代、N放世代のようなロストジェネレーションなどが何度も登場してきた。

IMF世代とは、1997年に発生したアジア経済危機の影響で、就職難にあえいだ若者世代を称する。その後、景気はある程度回復したものの、大きな経済危機を経験した企業は正規職より非正規職の雇用を選好した。その結果、若者の多くは不安定雇用につき、低い収入で生活せざるを得なくなった。禹晳熏と朴権一は、20代が非正規職として働いた場合に得られる1ヶ月の平均予想月収を約88万ウォンと推計し、『88万ウォン世代』というタイトルの書物を出版した。その後、88万ウォン世代は厳しい状況に置かれている若者を代表する代名詞となった。

その後も若者をめぐる雇用環境はあまり改善されず、多くの若者がパートやアルバイトのような非正規職として労働市場に参加するか、失業者になり、N放世代が登場することになった。

「三放世代」から「七放世代」へ

N放世代とは、すべてをあきらめて生きる世代という意味で、2011年に、恋愛、結婚、出産をあきらめる「三放世代」が登場してから、三放に加えて就職やマイホームもあきらめる「五放世代」が、さらに人間関係や夢までもあきらめる「七放世代」が現れた。そして、最近はすべてを諦める「N放世代」に含まれる若者が増えている。

多くの人は「N放世代」が最後のロストジェネレーションだと思ったかも知れない。これ以上状況が悪化することはないと思ったからである。しかしながら、新型コロナウイルスは「N放世代」の状況をさらに厳しくした。そして、その結果「コロナ世代」が現れた。コロナ世代は、新型コロナウイルスの影響を受けた新しい就職氷河期世代と言える。

kinchart1016.png

新型コロナウイルスの影響により若者の就職環境はさらに厳しくなった。多くの企業で新卒採用の規模を縮小し、来年の新規採用を一時中断する企業まで現れた。新型コロナウイルスが起きる前には韓国の狭い労働市場を離れて、海外の労働市場にチャレンジする若者が毎年増加していた。

韓国産業人力公団の資料によると、海外就業者数は2013年の1,607人から2019年には6,816人まで増加した。史上最悪とも言われた日韓関係の中でも日本への就職者は増え、海外就業者の3割以上(36.2%)が海外の就職先として日本を選択した。しかしながら、新型コロナウイルスはこのような選択肢さえ奪ってしまった。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story