コラム

クリスマスに急転直下、漁業問題も先送りのブレグジット合意の危うさ

2020年12月25日(金)19時00分

英ジョンソン首相の作戦勝ちか?(2020年12月24日) Paul Grover /Pool via REUTERS

<どさくさ紛れの感もある合意には、一般市民や産業への恩恵が具体的に見えず、そもそも大市場のEUがなぜイギリスに譲歩しなければならなったのかという疑念も漂う。それがEUに対する疲労感や拒否感につながっていくリスクもある>

欧州連合(EU)と英国の間に合意がなされた。

英国では、合意の中身より、ジョンソン首相の宣伝効果が功を奏している。

そして、EU加盟国では、もっとも最初から存在して忘れてかけていた根本的な疑問が投げかけられる。

2000ページもある内容を、たった10ヶ月くらいで、しかもコロナ禍の中で交渉を進めた現場の交渉官たちは、大変な努力をしたとしかし、クリスマス休暇中の慌ただしい合意。誰も中身を落ち着いて精査する環境になく、休み中にもう暫定発効しそうな勢いだ。本当にこれで良かったのか。

フランスの現場からの疑問

「私は合意内容のすべてがわかってからしか、声明を出さないつもりです」。フランスの欧州外交委員会のプレジデントであるジャン・フランソワ・ラパン委員長は、こう言った。

彼は漁師問題を抱える、英仏海峡に面したパ・ド・カレ県の上院議員でもある。「私の県では、みんな漁業に関する合意の詳細を、じりじりしながら待っています」。

「Public SENAT」によると、漁師たちは、この協定について、常に懸念を表明してきた。海洋漁業・養殖地域委員会によると、この県を含むオー・ド・フランス地方の漁業者による漁獲量の75%が危機に瀕しているのだという。

フランス上院では、クレマン・ボーヌ欧州担当大臣が、「英国の条件は受け入れられない」と断言していた。

合意書が今まで封印されていたという事実だけで、それなりの予兆があるように思えたという。

「合意があるという事実は良いことです。でも合意は、英国が欧州市場へのアクセスを容易にするものであり、恩恵を受けるのはイギリス人です。残る問題は、何の見返りがあるかということです」

漁業問題は結局どうなったか

漁業の問題は、どうやら2026年6月までの5年半の移行期間が定められたようである。

その間、欧州の漁業者は年間6億5,000万ユーロにのぼる漁獲量の25%を放棄することになる。その後は、イギリス領海へのアクセスは毎年再交渉されることになるという。AFPが報じた。

もしこれが本当なら、確かに、イギリスがEUの「25%」という数字を受け入れたのは、大幅な妥協だろう。5年半の移行期間というのは、当初EUは10年、英国は3年と言っていたのだから、互いの妥協かもしれない(ジョンソン首相は「EUは14年を求めていて、我が国は3年だった」と公式に言っているが・・・そうなのか??)

漁業が主権の象徴になっていたのに、英国が25%も放棄したのが「主権回復」になるのかどうか、はなはだ疑問である。

それに5年半の移行期間で何をどうして削減していくかは、未定だという。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

法律上できないことあると米側に説明、法律は憲法含む

ワールド

チリ中銀、政策金利4.50%に据え置き 予想通り

ワールド

豪2月CPI、前月比横ばい コアインフレは予想下回

ワールド

米政権、エネルギー価格抑制へ夏のガソリン規制緩和方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 8
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 9
    表情に注目...ニコール・キッドマン、大富豪夫妻から…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story