AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
WHAT CAN AI REALLY DO NOW

IMAGINIMA/GETTY IMAGES
<巨額の資金が投じられたAIプロジェクトの8割が失敗している――そんな厳しい現実を前に、専門家たちはAIを巡る過剰な期待を見直し、「人間との共存・協働」という現実的な方向性を模索し始めている>
AI(人工知能)が「私が引退するまでに、ネコ程度まで賢くなっていたらうれしいのだが」と、メタのチーフAIサイエンティストを務めるヤン・ルカンは言う。
ルカンはディープラーニング(人間の神経回路網をまねたニューラルネットワークを用いた機械学習)の生みの親の1人で、コンピューター科学のノーベル賞といわれるチューリング賞の受賞者だ。
「引退はそう遠い先のことではないから、時間はあまり残されていない」
ルカンはAIの未来に非常に大きな可能性を見ているが、現状はその域にはまるで届いていない。ベンチャーキャピタルや企業はAIが実現するはずの夢(癌の克服であれ受信した電子メールの自動処理であれ)に巨額の資金を投じているが、現実は厳しい。
米シンクタンクのランド研究所によれば、AI関連の開発プロジェクトの80%以上が失敗に終わっているという。この率は、AIと関係のないIT関連プロジェクトの2倍に相当する。
アップルは自動運転車の開発に100億ドル以上を投じたし、ゼネラル・モーターズ(GM)も自動運転タクシーの実現に向けて100億ドル近くを投資したが、いずれも撤退した。
実業家のイーロン・マスクは5年前、「われわれの行く手には、AIが人類よりもはるかに賢いという状況が待っている。その実現まで、今から5年もかからないと思う」と語ったが、今のところ、AIが人間を凌駕するには至っていない。
AIは事務の自動化からサプライチェーンの最適化、戦略のヒントを得るための膨大なデータの分析まで、ビジネスのやり方を根本から変えるだろうといわれている。
AIをうまく取り入れることができれば、企業は太刀打ちできないような競争力を手にすることになるかもしれない。
だが、全てを変える「AI革命」がいつ起きるのかは分からない。それはオープンAIのサム・アルトマンCEOが「これまでのいかなる時代とも全く異なる」時代になると言った2030年代なのか。それとも既に始まっているのか。
難破船の残骸で取り囲まれた楽園の島のように、AIの夢の周りには失敗の山が築き上げられているのが現状だ。だがルカンのように何十年も前からAIの仕組みを研究している人々は、AIとの付き合い方をもっと柔軟に考えている。
以下は、最前線でAI研究を続ける専門家たちの話から得られた、今のAIとの付き合い方に関する6つの教訓だ。
教訓1 制御するのは常に人間でなければならない
シリコンバレーの大物たちを魅了してやまないのが、監視しなくても機械が自律的に仕事をする「人間なし」のビジョンだ。
アルトマンは、遠くない未来にAIが「企業のマーケティング担当者が広告代理店や戦略立案担当者、クリエーターに依頼している仕事の95%」をこなすようになると考えている。
画像だろうが動画だろうが広告キャンペーンの案だろうが「容易に、ほぼ一瞬でほとんどコストもかけずにAIが片付けてくれる」というのだ。
米連邦議会議員たちとの会合でも、アルトマンは「70%以上の仕事がAIによって失われるかもしれない」と警告している。
これまで人間の介入を必要としない自動化技術の開発には巨額の資金が投じられてきた。だが多くの場合、期待どおりの成果は出ていない。
マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所の元所長ロドニー・ブルックスはロボット工学のパイオニアで、自走式の掃除ロボット「ルンバ」のメーカー、iRobot(アイロボット)の共同創業者でもある。
最先端技術を応用して現実世界で幅広く使われるようにするにどうしたらいいかを何十年間も研究してきた経験から、どんなに賢い道具でも、人間が介入する余地を残しておかなければならないと考えている。
「新しい技術を受け入れてもらうには、制御しているのは人間の側だという感覚が欠かせない」と彼は本誌に語った。
また、AIの抱える限界は、取りも直さず人間の介入の重要性を意味する。
【note限定公開記事】AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則
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