コラム

EUとTPPの連携、なぜニュージーランドが主導? その経緯と懸念される困難とは

2025年05月02日(金)12時25分
クリストファー・ラクソン首相

ニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相(2024年8月16日、豪キャンベラ) Tracey Nearmy-REUTERS

<両者の「より強固な連携を」というアイディアは今突然浮上したわけではない。この動きを「日本が主導すべき」という声もあるが──>

欧州連合(EU)と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が連携をするべきだという声が高まっている。

日本を代表するような複数の新聞の社説がそのように訴えているし、斎藤健・前経産相は「日本はEUのTPP加盟主導を」と訴えている。

トランプ政権が厳しい関税措置を打ち出し、多国間の枠組みではなく一対一の交渉へ持っていこうとする今、突然噴出し始めたEUとTPP(CPTPP、またはTPP12とも呼ばれる)の連携の議論。この話はどこから来て、どのような課題があるだろうか。

主導したのはニュージーランド

この連携の話がどこから来たのか、報道をたどっていくと、最初に現れるのがニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相が4月10日に首都のウェリントン商工会議所で行った演説である。

首相は、一部の評論家が自由貿易や自由な人々、ルールに基づく国際秩序の終焉を宣言したが「私の立場では、まだ白旗をあげるつもりはない」と明言した。

そしてニュージーランド人にとって、我々の近隣地域であるインド太平洋に、戦略的競争とルールに基づく貿易の悪化が及ぶのを目の当たりにするのは「直面すべき課題である」と述べた。「ニュージーランド人は逆境に直面したときこそ最も力を発揮し、世界の舞台で競争する時こそ繁栄する」という。

そして、ルールに基づくグローバルな貿易システムを強化する方法について、世界各国の首脳と電話会談を行うと言った。

その言葉通り、10日に首相は、EU欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と電話会談を行った。二人は、ニュージーランドが主導的な役割を果たすTPPにおいて、同国とEUがどのように協力するかの展望について議論をしたという。フォンデアライエン委員長は、この件をさらに探求する意向も表明、出来るだけ早く二人の直接の会談を行うことで合意したのである。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story