コラム

冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは?

2021年12月28日(火)16時30分
プーチン

バイデン大統領とネット会談を行うプーチン大統領(2021年12月7日) Sputnik/Sergey Guneev/Pool via REUTERS

<プーチンはアメリカしか相手にしていないが、バイデンは違う──「ウクライナに米軍を派遣しない」と述べた真意は? 1月の交渉はどのように運ぶのか>

ロシアがトーンをやや変えた。

12月23日、プーチン大統領は年末恒例の記者会見で、「今のところ、我々は肯定的な反応を見ている。アメリカのパートナーは我々に、年明けにジュネーブでこの議論、この交渉を始める用意があると言っている」と述べた。

これまでの一週間は緊張が漂うものだったが、交渉に少しだけ希望が見えてきた。

ロシアのラブロフ外相は、ロシア大統領顧問のユーリ・ウシャコフ氏と、米国国家安全保障顧問のジェイク・サリバン氏が中心となって、「1月中に」開始されるはずだと詳細を説明した。

この1カ月の歩みを見てみたい。

12月8日、バイデン大統領は、ロシアがウクライナに侵攻した場合に米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べた。

その後12月17日、ロシアは、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)に無理難題を提示した。

それは、1997年の状態に戻すこと。つまり、NATOが東欧に拡大する前の状態に戻すということだ(東ドイツは1990年の統一ドイツ加盟なので問題に入らない)。

具体的には以下のようなものだ。

◎バルト3国は今NATO加盟国だが、NATO軍を置かない。

◎ウクライナ、ジョージア、その他の候補国に、NATOのさらなる拡大をしない。

両国にNATO加盟の道を開いた2008年の決定を「正式に」破棄する。

◎相手方の射程内に短・中距離ミサイルを配備しない。

◎NATOはウクライナだけでなく、もっと一般的に東欧、中央アジア、南コーカサスでいかなる軍事活動も行うべきではない。

上記の要求は、四半世紀の歴史の歩みをなかったものにしたいという、無茶苦茶な内容である。

これらの経緯は、日本に不安を呼び起こした。何と言っても、バイデン大統領が、ウクライナに軍を出さないと明言したことがである。

「交渉の段階で、そんなことをはっきり言って良いのか」、「手の内を見せてしまっては、交渉にならないではないか。昔のアメリカなら、力を誇示しつつ、際どい緊張感のある交渉をして、有利な条件や状況を勝ち取ったのに」というのだ。

バイデン大統領の能力や姿勢を不安視し、もし台湾有事で同じことになったらと、心配しているのである。

日本の周りはまだ冷戦態勢なので、この不安は理解できる。筆者も「そこまではっきり言わなくても」とは思った。

でも、米欧関係を見続けていると、それほど意外でもなかったし、別の意味があるように思う。このことを、以下に説明していきたい。

まず、プーチン大統領は、アメリカしか相手にしていないが、バイデン大統領は違う。

フランスのマクロン大統領は、プーチン大統領と実際に会う会談を望んでいるが、無視である。「ガン無視」と言っていいかもしれない。ドイツのショルツ首相に対しても同様である。

22日になって、やっと独仏首脳との電話会談だけは実現した。

プーチンの頭の中は、完全に冷戦思考になっている。でもそれは真理でもある。「軍事で日本と話す必要などない。アメリカと話せばいいんだ」というのに似ている。かえってプーチン大統領の本気度を感じさせた。

プーチンとバイデンの両大統領の会談は、今後は予定にないというが、両国の主要政治家たちの交渉は続いている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サファイアテラ、伊藤忠商事による伊藤忠食品の完全子

ワールド

マクロスコープ:高市氏、賃上げ「丸投げしない」 前

ビジネス

メモリーチップ不足懸念、他の半導体注文に影響=中国

ワールド

マレーシアGDP、第3四半期は前年比+5.2% 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story