コラム

マドゥロ後のベネズエラ原油開発、日本の利権をどう考える?

2026年01月07日(水)15時00分

米DEA執行官に連行されて今月3日にアメリカに到着したマドゥロ大統領(左端) REUTERS

<かつて日本はベネズエラの原油加工技術で中心的な役割を果たしていた>

トランプ政権によるベネズエラのマドゥロ大統領夫妻拘束作戦は、新年の世界を震撼させました。この作戦の目的についてトランプ米大統領は、膨大な原油埋蔵量を活かせていない現状をアメリカが立て直し、ベネズエラを豊かな国にするためとしています。確かに、単純な埋蔵量で比較すると、ベネズエラはサウジアラビアを上回っています。マドゥロ政権の下では設備の老朽化などで掘削ができずにいるのであれば、アメリカが国家運営に介入することで再建するというストーリーは成り立つかもしれません。

しかしながら、話はそう単純ではありません。何よりもベネズエラが膨大に埋蔵しているのは超重質油といって、粘り気が多く液体というよりは半個体です。したがって、掘削にも輸送にも困難を伴います。ですから、エネルギーとして活用するにはコストがかかるのです。ベネズエラの石油産業が栄えていた2000年代には、現在よりも原油価格は高かったのでビジネスが成立していましたが、その後は原油価格の低迷により利益確保が難しくなっていました。


さらに、2010年代にはシェールオイルの掘削が本格化しています。シェールオイルはアメリカ本土でも採れるので、輸送コストが低いですし、採れる原油は粘り気の低いものです。ですからシェールオイルはベネズエラの超重質油にとってライバル関係にあります。ベネズエラの油田としては、技術革新によってコストを下げないとシェールに対抗できないのです。

ところで、今回の事件の日本に与える影響については、色々な意見があります。プラス面としては、国の再生が成功した場合に原油供給量が増えて価格が下がるという期待があります。反対に、マイナス面としては「力による現状変更」へのハードルが下がって安保リスクが高まるという不安感があるようです。

超重質油はそのままではタンカー輸送もできない

その一方で、あまり知られていないのですが、かつての日本はこのベネズエラの超重質油の利用を実用化するにあたって中心的な役割を担っていました。様々な技術供与がされ、またその結果として生産される原油の大規模な輸入も真剣に検討されていた時期があるからです。

まず、超重質油というのは、例えるのなら真っ黒でドロドロの硬めのコールタールのようなもので、そのままではタンカー輸送はできません。そこで、日本企業の日揮がベネズエラに技術供与をして、超重質油をナフサで薄めて運べるようにするプラントを稼働させていました。

この粘り気を薄めた超重質油ですが、そのままでは燃料にはできません。まず、硫黄や重金属などボイラーを傷める成分を除去する必要があります。また、それとは別に水を混ぜることで薄めるということも行われています。ですが、水と油はそのままではまさに「水と油」で混ざらないので、マヨネーズやドレッシングのように「乳化(エマルジョン)」する必要があります。超重質油の場合は水(全量の30%程度)の粒を混ぜて乳化します。その乳化のためには界面活性剤を使用します。乳化して粘り気を減らすだけでなく、このエマルジョン燃料は燃焼効率も良くなります。

特にこのベネズエラのオリノコ川流域で採掘される超重質油を乳化して燃料にする技術については、日本が深く関わっています。具体的には三菱ケミカルや電力会社(関西電力、北海道電力など)が1990年代から技術開発を続け、オリノコ原油をエマルジョン化するということから、「オリマルジョン」という商標で開発に成功しました。このオリマルジョンの事業化には三菱商事が深く関与しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「米軍がホルムズ封鎖へ」、イランは海峡接

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story