コラム

消費税減税の断念示唆?に見られる日本的「空気」の決定

2026年01月28日(水)14時40分

1月23日の通常国会冒頭で衆議院は解散し、2月8日総選挙に向けて選挙戦がスタートした IMAGO/Future Image/REUTERS

<自民党の食料品消費税ゼロ化「検討加速」も、財源を示さない各党の消費税減税公約も、「事実上不可能」というメッセージにしか聞こえない>

日本社会には歴史的に、重要なことについて議論を尽くすのではなく、むしろ「言語化しない」ことで「空気」を生み出し、その濃くなった「空気」によって暗黙の合意を形成するという習慣があります。

例えば、昭和末期に貿易黒字が積み上がって円高になると、理由もないのに多くの企業が「ニューヨーク駐在事務所」を横並びで作ったり、アメリカの企業や不動産を買い漁ったりしました。そしてバブルが崩壊すると、今度は企業が一斉に新規採用を控えて就職氷河期が現出しましたが、それも時代の「空気」に縛られての結果でした。


政治的な動きも同様で、2000年代の小泉純一郎政権は「郵政民営化」を掲げて人気を獲得しました。一見すると構造改革や民間活力導入という正論が世論に理解されたようにも思えます。ですが、内容は中身のない「空気」であり、例えば最大の目的であったはずの、「郵貯マネー」が民間の成長投資へと回ることはありませんでした。

そう考えると、今回の衆院選において事実上「消費税減税は不可能」だという理解が、「全く言語化されないまま」に浸透しているのは、実に日本的な「空気」が発生していると言えます。起きていることは意外と複雑です。まず、「ほぼ全ての党が消費税減税を公約」するとともに、「ほぼ全ての党がその財源を示さない」ことで、「分かる人には分かる」形で「消費税減税は不可能」というメッセージが事実上伝わっています。

「検討を加速」は実現困難を示唆?

これに「超長期金利の4%超え」という問題、そして「限りなく160円へ接近した円安」の恐怖が重なる中で、財政規律を弱めることへの恐怖がジワジワと広がったのだと思います。思えば各政党が知恵を絞った「公約」の言語表現も興味深いものでした。

例えば自民党の「26年度中の食料品の消費税ゼロ化を希望し、検討を加速」という表現は、どう考えても「希望はするが実現は困難」「検討するが実現は困難」というメッセージが埋め込まれているとしか思えません。中道改革連合の「食料品の消費税ゼロ化を恒久減税として、財源は政府ファンドや基金の余剰資金」というのも同様で、これも「できません」と言っているに等しいわけです。

一方で左派や右派の中小野党になると、更に断定口調となり減税の規模も大きくなります。その反対に財源の議論はゼロになりますが、これも現実離れしたイデオロギー的メッセージとセットで、話芸の一種として伝わっているだけです。つまり、与野党の全体が「財政規律の緩和は債券と通貨の暴落」に直結するので「消費税減税は不可能」ということを、そのような表現を「一言も言わずに」一種「ステルス式」なやり方で世論に浸透させたと言えます。

この間の債券と通貨のダブル安は、かなり綱渡り的なもので肝を冷やしました。ですが、あくまで仮の話ですが、この選挙の結果として無謀な減税は「できないし、しない」という国民的な合意ができたとすると、高市首相の解散戦略は結果オーライになるとも言えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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