コラム

エプスタイン疑惑の深層に横たわる2つの問題

2026年02月11日(水)15時00分

捜査ファイルの公開でエプスタインスキャンダルへの注目が再び集まっている New York State Division of Criminal Justice Services/REUTERS

<かつてメディア覇権を争ったユダヤ系メディア王マックスウェルの謎の死と、文書公開を出し渋ったトランプに対するZ世代の反発>

ジェフリー・エプスタンという大富豪をめぐるスキャンダルが、あらためて注目されています。連邦議会の議決に基づいて、300万ページにも及ぶという事件の捜査ファイルが条件付きながら公開されたからです。また、エプスタインとの関係が疑われているビル・クリントン氏が妻のヒラリー氏とともに議会証言を行うことに同意しており、どんな証言になるか注目されています。

こうした関心の中核には、未成年者への人身売買、暴行といった極めて悪質な性犯罪を繰り返したエプスタインという男と、これに群がった著名人のスキャンダルへの関心があります。その奥には、腐敗したエリート層への反発があり、同時に現職のトランプ米大統領とエプスタインの関係が注目されています。


大きな構造としては以上の通りですが、この事件の深層としてはさらに別の2つの問題があると考えられます。

1つ目は、そもそもエプスタインという人物は何をやっていたのかという問題です。事件の発端は1991年に当時はルパート・マードックと世界のメディア覇権を争っていたユダヤ系のメディア王、ロバート・マックスウェルが謎の死を遂げたことに始まります。マックスウェルはイギリスをベースに、アメリカなど世界の新聞や出版に手を広げていましたが、ヨットから海に落ちて死亡したのでした。

当時から陰謀論があり、イスラエルのモサドが暗殺したなどという話がまことしやかに囁かれていました。理由は簡単で、ユダヤ系のマックスウェルがイスラエルの左派を支援していたからであり、特にイスラエルの原爆保有を自社メディアで暴露したことをイスラエルの右派に恨まれていたと考えられていたからでした。その真相は不明であり、永遠に解明はできないでしょう。ちなみに、マックスウェルの死とともに複雑で巨大な使途不明金の構造が明るみに出てメディア帝国は崩壊、子供たちの多くは破産したり投獄されたりしました。

中東和平絡みの人脈

ここで登場するのがエプスタインで、マックスウェルが溺愛していた末娘のギレーヌの代理人として、彼女の資産を守り、そしておそらくは彼女を陰謀の魔手から守ろうと誓った可能性があります。全くの推測ですが、イスラエルの左右対立エネルギーが交錯するなかで、ギレーヌとエプスタインは好むと好まざるとにかかわらず、国際政治の渦中に巻き込まれ、また出所を明らかにできないマネーの渦の中心にもいたのだと思います。

この点を踏まえるのであれば、エプスタインがイスラエルのバラク元首相(左派の労働党)、そしてビル・クリントン(中東和平を促進)、あるいは英労働党人脈に接近したことは説明がつきます。国際政治の渦中に飛び込むことで、自分とギレーヌを守ろうとしたのかもしれないからです。

このエプスタイン事件、イギリスにも飛び火していますし、アメリカでも政財界にわたる多くの交友関係が暴露されつつあります。ですが、その全てが性犯罪に関与していたのではなく、中東和平のため、またそのためにイスラエルの労働党人脈などと連携するために、エプスタインというフィクサーに関与した人物もいるかもしれません。ただ、こちらの仮説についても、マックスウェルの死と同様に、怪死したエプスタインが墓まで持っていっているので、解明は難しいと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル外相「終わりのない戦争望まず」、終結時期

ワールド

G7エネ相、備蓄放出含め対応すること確認 IEAも

ワールド

レバノン人道危機が深刻化、子ども84人死亡・66万

ワールド

ホルムズ海峡「平和か苦難」いずれかに、イラン安保ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story