<決勝戦が行われるメットライフ・スタジアムはニューヨークからハドソン川を渡ったニュージャージー州にある>
ニューヨーク市の中心はマンハッタン島という一つの島であり、そこから西のフィラデルフィア、ワシントンDCに向かうには、ハドソン川を越えてニュージャージー州に行く必要があります。東京から名古屋や大阪に行くには、まず多摩川を越えて神奈川県に入らなくてはいけないのと同じです。
例えば東京都から多摩川を渡る場合には、数多くの鉄道橋があります。東海道新幹線以外に、東海道線をはじめJR東日本の3線、その他に、民間鉄道が京急、東横、田園都市、小田急、京王の5線があります。ある仕事をしていた際に、うっかり見逃していたことがあるのですが、この中で田園都市線と小田急線の橋は複々線なので、複線を1セットと考えると全部で10セットあることになります。
ところが、ハドソン川の場合は、パストレインという、ほとんど川をくぐるだけの地下鉄が2本ある以外は、1セットしかありません。1910年に開通した「ノースリバー・トンネル」1本だけなのです。ちなみに、1910年以前は、ニュージャージー側からマンハッタンに入るには、ニューアークの市街の近くで、幹線から鉄道を乗り換えて港へ行き、フェリーに乗るしかありませんでした。ちなみに、この幹線からの乗り換え駅が「マンハッタン・トランスファー」で、20世紀末に活躍したコーラスグループの名前はここから来ています。
スタジアムに向かう公共交通機関は限られる
1910年にこのトンネルを掘ったのは、当時はアメリカ経済界に君臨していた巨大企業の「ペンシルベニア鉄道」で、最新の技術が投入されたトンネルでした。それから116年を経た現在は、さすがにトンネル1本では十分ではありません。この1本のトンネルに長距離特急のアムトラックも、中距離通勤鉄道のニュージャージー・トランジット(NJT)も集中します。このため、この区間の輸送力には限界があり、ほんの少しの遅延が大渋滞になったりするのです。
問題はまさに現在開催中のサッカーのW杯です。決勝戦も予定されているニューヨーク会場というのは、実はニューヨーク州ではなく、ハドソン川を渡ったニュージャージー側にあります。NY市内からこのスタジアムに向かう公的交通手段は、基本的に、このトンネルしかありません。ちなみに、W杯のサポーター輸送を担うのは、このトンネルを通るNJTであり、その運賃は往復98ドル(約16000円)という値段となっていて世界中から呆れられています。ただ、NJTとしては、98ドルの運賃でも経費をカバーできていないとして、州政府に対して300ミリオン(480億円)のW杯関連輸送費の追加を申請しているそうです。