太陽の光がほとんど届かない深海には、存在そのものは知られていても、生きた姿を誰も見たことのない生物がいる。標本や図鑑の中でしか確かめられなかったその姿が、大西洋中央部の水深700メートルを超える場所にあるドルドラムズ巨大変成断裂帯で、初めて映像に収められた。

その生物の正体は、クロデメニギス。デメニギス科に属する深海魚だ。同科の多くの魚が上方を向く筒状の眼を持つのに対し、クロデメニギスの眼は前方を向いていると報告されている。

ただし、これまで同科の研究は、主に網で採集された標本に基づいてきた。しかし、軟らかい組織を持つ個体は海面まで引き上げられる途中で損傷しやすく、自然環境下での生きた姿を記録した映像も確認されていなかった。

米非営利研究機関シュミット海洋研究所は2026年7月7日、大西洋で行った深海調査の成果を発表。その中で、調査中、遠隔操作無人探査機「スバスティアン」が水深約710メートルを遊泳するクロデメニギスを撮影したことを発表した。生きたクロデメニギスが自然環境下で映像に収められたのは初めてだという。

今回の映像だけで、クロデメニギスの食性や繁殖、生息範囲などが解明されたわけではない。一方、自然環境下における体形や眼の向き、遊泳姿勢を確認できる新たな観察資料として、今後の研究に活用される可能性がある。

他にも、同チームは長さが最大8メートルにもなる糸状の触手で知られる、オオヒレイカの姿なども捉えられたという。

ナショナルジオグラフィック・エクスプローラーのオリビア・ソアレス・ペレイラ博士研究員は今回の調査結果について、「今回の発見から、数多くの新たな疑問が生まれた。ドルドラムスの熱水噴出域に生息する生物群集は、近隣の大西洋中央海嶺で確認されている生物群集とどのようにつながっているのか。動物たちは、岩盤が新たに露出した海底にどのように定着するのか。トランスフォーム断層系は、生物の生息環境としてこれまであまり注目されてこなかった。しかし今回の調査は、こうした環境に興味深い新発見の可能性があることを示している」と語った。

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