コラム

冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは?

2021年12月28日(火)16時30分

一方で、バイデン政権は、NATOの加盟国で、かつ欧州のパートナーたち(大半がEU加盟国)との協力関係を維持している。

フランスの「ル・モンド」紙によると、バイデン大統領のアメリカは、中国とインド太平洋を重視しており、そのような古典的な冷戦パターンを復活させることに関心がないのだという。

だからこそ、アメリカ側は、多様性を強調している。

今行っているような古典的な米露会談もあるが、他にも様々な方法がある。NATOとロシアが理事会で話す、欧州安全保障協力機構(OSCE)の加盟国57カ国間で協議する(クリミア併合時のように)、さらにウクライナ問題に関する2015年の合意「ミンスク2」と同じように、OSCEの監督のもと、ロシアとウクライナ+フランスとドイツで話し合う方式があるという。

細かい話になるが、この発言の背景には、EUは「ミンスク2」方式を、アメリカは「NATO+ロシア」方式を、ロシアは米露対話を望んでいるという状態がある。

どのみち、このような欧州とアメリカの協力関係は、伝統的なものである(トランプ前大統領と違って)。でも欧州は、アメリカがもはや以前のように、欧州に高い軍事的関心をもっていないことを知っている。冷戦は終わったのだ。

むしろ「こちらは攻撃する意図なんてありませんから」と相手をなだめるほど、ロシアは追い詰められていると捉えるべきだろう。いわば「窮鼠猫を噛む」状態とも言える。窮鼠に最も良い方法は、まずは攻撃の意図を見せないことである。

それに、国境付近のロシアの軍隊結集の問題は、突然この1カ月で起こったわけではない。集まったり引っ込んだりしながら、1年弱続いている。

ロシアが問題視してきたのは、むしろ、アメリカによるウクライナへの軍事資金の援助だと言われてきた。

大変わかりやすい話で、NATOが守らなくても、ウクライナが軍事的に強くなれば良いわけだ。アメリカの軍事産業も、発注があって潤うというものだ。

アメリカは今年、約4億5000万ドルを、ウクライナの安全保障協力に費している。約515億円。これは、だいたいエチオピアの年間国防費に相当する(世界で88位の国防費額。やや古い2010年の数字)。

ロシアがクリミア半島を占領した2014年以降、米国はウクライナに25億ドル以上の援助を提供してきた。

米国防総省は3月、ウクライナの領海防衛を支援する武装巡視船2隻を含む、1億2500万ドルの軍事支援パッケージを発表した。

10月末には、対戦車防衛システム「Javelin」30基が納入された。

「Wall Street Journal」によると、以前アフガニスタンで使用されていたMi-17ヘリコプターの話もあるという。ウクライナは、海だけではなく、防空システムも希望しているという。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け

ワールド

ポーランド家屋被害、ロシアのドローン狙った自国ミサ

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story