コラム

プーチン大統領を「侵略の罪」で裁ける? 欧州が団結して設置する「特別法廷」を知るための5つのポイント

2025年05月16日(金)17時30分
プーチン大統領

クレムリンでセルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領と会談したプーチン大統領(5月9日、モスクワ) Alexander Zemlianichenko/Pool via REUTERS

<新しい特別法廷が必要だった訳、起訴される可能性のある人物、欧州以外の国の参加可否など、5つの要点について解説する>

プーチン大統領がモスクワで、習近平国家主席を招いてナチス・ドイツに対する勝利80周年記念日の軍事パレードに参加していた間、欧州の国々はロシア指導者たちを戦犯として裁く決意を一つにしていた。

欧州の約40カ国の外相らがウクライナ西部の大都市リヴィウに集まり、「リヴィウ声明」を採択したのである。これは、ウクライナに対する侵略犯罪のために特別法廷を設立することを正式に支持するものだ。

欧州側はあえてこの日を選択したようだ。EU欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「ヨーロッパデー(5月9日)を祝う今日、私たちはウクライナ国民のための正義に一歩近づきました」と述べている。

プーチン大統領はこのことを事前に知っていたのではないか。プーチン氏の記念日演説では、西側に対する非難は影をひそめ、「ロシア恐怖症(嫌悪)と戦う」という言葉が盛り込まれており、「真実と正義は我々の側にある」と続けていた。

ソ連に回帰してスターリンの再評価を始めるプーチン大統領と、ドイツも含めて国際正義のもとに団結する欧州の国々。20世紀と21世紀の対比が明確すぎるほどになった。

この日はロシアと欧州の決別が確定した、欧州の歴史に残る日と言っていいのではないだろうか。

「特別法廷」に関して、5つの要点を以下にまとめた。

1. なぜ新しい特別法廷をつくるのか

既にオランダのハーグには、国際刑事裁判所(ICC)という国際的な裁判所がある。現在、日本人の赤根智子判事が所長をつとめている。

しかし、ICCは、ロシアを「侵略犯罪」で裁くための管轄権をもっていない。今に至るまでロシアは、中国、インド、アメリカなどの大国と同様に、ICCに加盟していないためだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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