コラム

EU・インド急接近で変わる多極世界の地政学...「新スパイスの道」構想は前進するか

2025年03月28日(金)13時20分
フォンデアライエン欧州委員会委員長とモディ首相

ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長(左)とインドのナレンドラ・モディ首相(2月28日、ニューデリー) Sonu Mehta/Hindustan Times/Sipa USA via REUTERS

<世界秩序が急変するなか、両者はどんな「共通の利害」を見出しているのか>

欧州連合(EU)とインドが急接近している。

「紛争と激しい競争の時代にあって、我々には信頼できる友人が必要だ」と、EUの欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、デリーに到着するや否や、こう述べた。

両者は「年内」に自由貿易協定(FTA)を締結することで合意しただけではない。安全保障と防衛の分野などで協力の意向を明らかにした。さらに、インドと欧州を結ぶ「新スパイス(香辛料)の道」構想が、新たに息を吹き返すかもしれない。

両者がにらんでいるのは、ロシア、中国、アメリカだ。多極化のバランスが崩れる世界にあって、どのような思惑があって接近しているのだろうか。

FTA締結に向けた協議は過去にも

今回、熱いアプローチをしたのはEU側である。

インドを訪問したフォンデアライエン委員長は2月27日に「惑星は一直線に並び、ヨーロッパとインドも同様です」と述べるなど、最大級の友情と期待を示してみせた。インドのナレンドラ・モディ首相は、大変ご満悦の様子だった。

この変わりぶりに多くの人は驚いた。

実は、EUとインドの貿易協定の話は今に始まったことではなく、ずっと停滞していたのだ。

2007年からFTAの締結を目指して交渉を始めたものの、2013年に中断された。2022年に交渉は再開されたが、主にインド側の保護主義(高関税と非関税障壁)、そしてEU側のインド人に対するビザ発給制限で、また同じ障害にぶつかっていた。

インドにとってEUは、アメリカや中国を上回り、最大の貿易相手となっている。2023年には1240億ユーロの物品が取引され、インドの総貿易額の約12%となっている。だからこそ、共通の標準をつくるためにもFTAは望まれていたのだが、両者に意志が欠如していた。

それが今、大変な熱の入れように変わった。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story