コラム

EUとTPPの連携、なぜニュージーランドが主導? その経緯と懸念される困難とは

2025年05月02日(金)12時25分

ラクソン首相は、ベトナム、シンガポール、マレーシア等の首脳とも電話会談を行った。

この選択は実に的を射ている。EUが自由貿易協定(FTA)を既に結んでいる東南アジアのTPP加盟国は、ベトナムとシンガポールだからだ。そしてフォンデアライエン委員長も、4月15日シンガポールのローレンス・ウォン首相と電話会談を行い、TPPとの協力強化の可能性を議論した。

一方で、中国の習近平主席は4月14日から東南アジアを訪問、ベトナムとマレーシア、カンボジアで首脳会合を行った。2カ国がラクソン首相が電話会談した国と重なるのは、偶然ではないだろう。

EUとニュージーランドの話し合い

なぜEUとTPPの連携の話は、ニュージーランドから発信されたのだろうか。

もともとTPPとは、2002年に行われたアジア太平洋経済協力(APEC)の会議において、ニュージーランド・シンガポール・チリが結成した「Pacific 3」と呼ばれる経済パートナーシップから始まっている。これにアメリカのオバマ政権の太平洋戦略が加わり拡大、2015年に米ジョージア州アトランタでTPPの合意に達し、2016年にニュージーランドの首都オークランドで正式に署名となった。

そのためニュージーランドはTPP協定文書の保管国となっており、メッセージや文書の保管・調整役をつとめている。

この連携の話には、EU側からの働きかけがあったという。

3月末の演説で、ニュージーランドの元貿易大臣デヴィッド・パーカーは、「私は連携のアイディアを欧州から持ち帰ってきました」と明かしている。

「現地のとても高い地位にある貿易関係者たちと会談してきました。彼らは元政治家であり、政治的制約から解放されているため、よりオープンに私に話してくれたのです」という。帰国後、彼は現外相の事務所を通じて政府に提示したのだと語る。ニュージーランドのメディア「ニュースルーム」がそう報じた。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド中銀総裁「低金利は長期間続く」=FT

ビジネス

シャドーバンキング、世界金融資産の51% 従来型の

ワールド

ロシア財政赤字、2042年まで続く見通し=長期予測

ワールド

スーチー氏の健康状態は「良好」とミャンマー軍政、次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story