コラム

クリスマスに急転直下、漁業問題も先送りのブレグジット合意の危うさ

2020年12月25日(金)19時00分

一方でEUの加盟国側の政治家や市民としては、根本的な問いが出始めたようである。「なぜ我々が妥協して、何かを失わないといけないのか」。

そもそも、わかりやすくいうのなら、イギリス側の主張はこういうようなものだった。

「私は会社を辞めます。引き止めても無駄です。この会社が嫌なんです。でも、これからもこの会社とのお付き合いは続けたい。会社のシステムも備品も、今までどおり使わせてください。でも、私はもうここの会社員じゃないのだから、会社の規則に従うのは嫌ですよ。私はもう独立して自由なのだから、私のやり方で、会社のシステムや備品を使わさせてもらいます。心配しないでください。それほどかけ離れたことはしませんから」

あれほどジョンソン首相は「合意なし」「イギリスは合意がなくても繁栄する」と強気に言っていたのだから、そうさせてあげるべきではなかったか──と。

一般市民や地元の政治家にとって、EUの首都であるブリュッセルは遠い。漁業や農業が犠牲になるということは日本でもあるが、少なくとも「その見返りに、我が国の商業は恩恵を受けた」とか、「我が国の立場としては、そうせざるを得なかったのだ」というのがわかりやすく伝わる。

しかし、EUという枠組みや欧州の利益というのは大きすぎてわかりにくいし、ブリュッセルは外国だという意識が頭をもたげてくる。

このような加盟国の一般市民や地元政治家の感情は、EUに対する疲労感や拒否感につながってゆくリスクをはらんでいる。

ジョンソン首相のメディア対策と大宣伝

ジョンソン首相の宣伝力は大したものだ。EUの欧州委員会という巨大な役所では、とても太刀打ちできない。

おそらく、広告代理店か、プロのアドバイザーがついているのではないか。なにせ今時は、戦争にも広告代理店がつく時代である。

英国がもっていた内部文書が、ニュースサイトの「グイド・フォークス」に引用された。

その中の分析では、合意内容で英国の「勝利」が28、EUは11、双方が妥協した分野が26だとしている。文書については、その後英当局者が確認しているという。意図的なリークを感じさせる。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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