コラム

ドイツでベーシック・インカムの実証実験が始まる──3年間、月15万円支給

2020年08月24日(月)16時30分

ベルリン・クロイツベルク地区はUBIを求める市民が最も多い。「コミュニティは商品ではない」というスローガンは、都市の高級化に反対する声明だ 撮影:武邑光裕

<国民全員に、生活に必要とされる現金を無条件に支給するという施策、無条件ベーシック・インカム(UBI)の実証実験がドイツでスタートした......>

ドイツの挑戦

人々はより自由になり、危機に対する回復力を持ち、持続可能な生活を実現できるのか? それとも、働かないで怠惰になるだけなのか? コロナ危機の中、世界中の人々の関心を集めているのが、無条件ベーシック・インカム(UBI)である。UBI(Unconditional Basic Income)とは、国民全員に、生活に必要とされる現金を無条件に支給するという施策である。

コロナ・パンデミックは、社会構成員としての私たちの生活を根底から揺るがしている。危機の時代に新しい答えを見つけるため、UBIをめぐる社会実験がドイツでスタートした。今後3年間で、UBIが実際にどのように機能するかを明らかにするための長期研究が開始される。

2020年8月中旬に始まったドイツの実証実験の第1フェーズでは、研究のために1,500人の被験者が採用される。そのうち120人が無作為に選ばれ、一人あたり月額1,200ユーロ(約15万円)が無条件に3年間支給される。残りの1,380人の研究参加者は、研究で観察された変化が、実際にベーシック・インカムによるものであることを確認するための比較グループとして機能する。

実験プロジェクトの参加者は、ベーシック・インカムに加えて自由に収入を得ることができる。ドイツの永住者で、18歳以上であれば誰でも、研究への参加を申し込むことができる。申請者は、連絡先情報、性別、世帯の人数、世帯の子供数、および学歴、純収入、社会的負担額など、申請者の全体的な生活状況に関する追加情報を提供するオンライン・アンケートに回答する必要がある。

100万人が調査への参加を申し込んだ段階で、抽選で120人が選ばれ、実証実験が開始される。または2020年11月10日、その時点までに登録した人から参加者が選択される。この調査には、基本の母集団ができるだけ大きく多様である必要がある。それにより、データ品質が大幅に向上するため、多数の申請者が必要なのだ。ベーシック・インカムは2021年の春から支払われ、3年間の研究の過程で、各参加者は、雇用、時間の使用、消費者の行動、価値観、健康に関する質問を含む6つのオンライン・アンケートに回答する。

UBIの資金調達

この調査は、UBIの支援団体である 「基礎所得協会」 とドイツ経済研究所が共同で行う。UBIが、私たちの社会を強靭で持続可能なものにする可能性を本当に持っているのかを確認するために、120人に3年間、毎月1,200ユーロを支払うには、約520万ユーロ(約6億5千万円)の予算が必要だ。

takemura0824b.jpg

ドイツ経済研究所(DIW)所長、マルセル・フラッチャー氏。ドイツのUBI実験を牽引する人物。Prof. Marcel Fratzscher, Ph.D. (C)DIW Berlin / B.Dietl

基礎所得協会によると、この資金は14万人以上の民間の寄付者から集められるという。これまでもUBIの導入にはさまざまな議論があった。受益者への影響に加えて、資金調達は重要な問題である。ドイツ経済研究所所長のマルセル・フラッチャー氏がドイツの日刊紙Zeit Onlineに寄稿した記事によれば、ドイツの国民1人当たり月間1,200ユーロで計算すると、約1兆2000億ユーロ(約150兆8.100億円)になり、これはドイツの年間経済生産高の約30%に相当する。これを政府がどう賄うことができるかが、一番大きなハードルである。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story