コラム

メタバースはインターネットのユートピアなのか、現実の悪夢なのか?

2021年11月26日(金)16時37分

FacebookからMetaへと社名変更したマーク・ザッカーバーグ(C)Rob Longert

<マーク・ザッカーバーグは、ソーシャルメディア企業の社名変更だけでなく、ARやVR分野への関与を強めることで、具体的なアイデアを大々的に宣伝しているが......>

メタバースとは何か?

Facebookは2021年10月28日、社名を「Meta」に変更した。これは次世代VR環境である「メタバース」の様々な可能性に、Facebookが本格的に参入することの強い意思表明だった。

今やメタバースという言葉は、2021年のバズワードとなっている。しかし、正直なところ、その意味を本当に理解している人は少ない。わからない理由は、メタバースを特定するのが難しいからだ。

Web 1.0が情報をつなぐインターネットで、Web 2.0が人をつなぐソーシャルメディアだとすると、今まさに到来しているWeb 3.0は、人、場所、モノをつなぐものだと考えられる。

ある意味では、デジタルな生活が物理的な生活に追いついてきている。それは、2次元から3次元環境への「脱却」を意味しているのかもしれない。人、場所、モノは、物理的な世界にあるだけでなく、VR環境や合成環境にある場合もある。ただ、メタバースはまだ黎明期である。

ディストピアの中のメタバース

今から約30年前の1992年、ニール・スティーブンソンのSF小説『スノウ・クラッシュ』が出版され、主人公たちはコンピュータ上に構築されたVR環境を「メタバース」と呼び、その中で彼らは第2の現実での活動を行なっていた。

takemura21211126_2.jpg

「メタヴァース」という言葉が生まれたSF小説『スノウ・クラッシュ』の著者、ニール・スティーブンソン。写真は2019年、ロングナウ財団で講演するニール・スティーブンソン氏 (C)Christopher Michel

主人公ヒロは、「ピザの配達人」として生計を立てていた。ピザを配達し、30分以内にピザが受取人に届かなければ、マフィアのような搾取工場との契約により死刑を課せられてしまう。そんな彼らも仕事を終え、メタバースの世界に参入すれば、明るい大通りを歩くことができ、主人公たちは第一世界で貯めたお金で買った立派な大きな家を持っていた。そこは第一の現実の過酷さを忘れることができる場所だった。

サイエンス・フィクションは、ディストピア的な未来を描くことが多い。しかし、そのような物語よりも興味深いのは、かつてのディストピアが、今や技術革新の主役たちによってポジティブなビジョンとして売られていても、大きな驚きや恐怖を感じることはない、ということである。現在のピザ配達人はライダーと呼ばれ、配達にかかる時間は10分以内をめざしている。

メタバースは近い将来の金鉱か?

マーク・ザッカーバーグは、ソーシャルメディア企業の社名変更だけでなく、ARやVR分野への関与を強めることで、具体的なアイデアを大々的に宣伝している。「メタバース」を目指すのはFacebookの創業者だけではない。最近では、テンセントなどの企業もVR化された未来の計画を発表しており、カリブ諸島の国バルバドスは、2022年にメタバースで初のデジタル大使館を開設したいと宣言している。

takemura21211126_66.jpg

Metaのロゴ。FacebookはEUの規制を緩和するために、EU圏内で1万人の新規雇用計画を発表している。

ベルリンでもメタバースの構築に特化した企業、JOURNEEがスタートした。VR空間における人と人とのつながり方を再考する最先端のソリューションを持つJOURNEEは、パンデミックをきっかけに、ソーシャル環境とデジタル体験を見直す旅に出た。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 7

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story