コラム

反アマゾン:独立小売業の変革を推進する「アンカーストア」の急成長

2022年03月02日(水)15時00分

現在、アンカーストアには15,000のブランドが販売する100万点の商品があり、小売業者の従来の仕入れ方法をDXが大きく変革している。Photo: Iris Hartl, (C)Ankorstore

<欧州では、独立系ブランドと小売業態に向けたDXが始まっている>

反アマゾン運動とは何か?

ヨーロッパ、特にベルリンで頻繁にデモが繰り返される反アマゾン運動は、グーグルやフェイスブックによるデータ・プライバシー抽出主義への批判とは異なる危機感から生じている。それは、GAFAへの反発以上に、地域の専門小売店を守る運動として理解する必要がある。

未来のショッピングがアマゾン一色になるのか、それとも地域に密着した小売店をどう後押しできるのか、この流れに今、大きな変化が訪れている。

ヨーロッパにおける独立系小売業の売上高は1兆ユーロ(約128兆円)を超え、約200万人の独立系小売業者が存在している。都市や街を魅力的にし、地域の循環経済を担っているのは彼らであり、近隣の社会生活を保障しているのも彼らなのだ。

街の遊歩と小売店

ヨーロッパの街は歩くことで多くのことを教えてくれる。ベルリンに住んで間もないころ、アパートの周辺にはじまり、徐々に遊歩の空間を広げていくと、地元と各地域の特色を自然と理解することができた。いわゆる商店街やデパートが集まる商業エリアだけでなく、ベルリンでは住宅地の中にも小さなショップが多くある。

そこには本や服、雑貨やクラフト、レコード店に花屋やコーヒー専門店、グルメな食材店など、大型量販店にはない独自の選択眼を持った小売店がある。和製英語で「セレクトショップ」という言葉があるが、まさに店主の目利きによって商品が選りすぐられた小売店のことだ。そんな商品感度の高い店を見つけては、心が豊かになることも多かった。

しかし、中心市街地にショッピングモールが次々と登場し、次にアマゾンが実空間のショッピングをオンラインに変え、素早い配送を提供してくると、街中に点在する小売店を訪れる機会は少なくなっていった。追い討ちをかけたのは、コロナ禍のロックダウンの繰り返しだった。アパートと食品スーパーとの往復以外、街の小売店舗に立ち寄る余裕もなくなった。

アンカーストアの使命

しかし、コロナ禍でアマゾンに依存する人々の急拡大とともに、ヨーロッパ各国の街に根付いた小売店にも大きな変化が到来している。欧州圏の反アマゾン運動を牽引するAnkorstore(アンカーストア)は、ヨーロッパの20万の小売業者と15,000のブランドをつなげるオンライン卸売プラットフォームである。

パリで創業されてからわずか2年で、家庭用品から食品、ファッションまで何でも販売する同社は2022年1月、新たに2億5000万ユーロを追加で調達し、評価額を17億5000万ユーロに引き上げ、ユニコーンの地位に到達したスタートアップとなった。

アンカーストアは、独立系ブランドや小売業者のための卸売市場を改革し、独立系企業の競争力を高めることを使命としており、ヨーロッパ全域でカテゴリーリーダーとして急成長している。アンカーストアの販売量は、2020年から2021年にかけて950%の増加を示している。2021年には11,000以上のブランドが登録され、現在では15,000以上のブランドが小売店向けに100万以上のユニークな製品を販売している。

アンカーストアのミッションは、独立系小売業に有利なグローバルなホールセールビジネスを創造することである。ブランドと独立系小売業者が共にビジネスを行うことをシンプルにし、彼らの日常生活の一部となることで、今日の小売業の時代遅れの習慣を変革している。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳

ビジネス

米輸入物価、8月は0.3%上昇 資本財・消費財の価

ワールド

イスラエル、イエメンのホデイダ港を攻撃=フーシ派系
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story