コラム

ベルリンで考えるパンデミック後のオフィスと仕事の未来

2020年06月23日(火)16時00分

企業オフィスよりコワーキングスペースが重要な役割に...... golero-iStock

<欧州では大多数の人々が、自宅でも効率的に仕事ができると認識しており、将来的にはオフィスを離れ、自宅で仕事が十分にできると考えている......>

パンデミックを受けて、テクノロジーの巨人から、ウォール街まで、企業はオフィスの役割と、それが本当に必要かどうかを考えはじめている。これは、数ヶ月前には誰も予想できなかったことだ。パンデミック以降、グーグルの親会社であるAlphabetは、サンフランシスコで最大の不動産取引となるはずだった200万平方フィートを超えるオフィススペースの取得を取りやめた。保険会社および金融サービスプロバイダーのNationwideは、5つのオフィスを閉鎖し、従業員を在宅勤務に恒久的に移行させる計画を発表した。今、世界中でオフィスの解約が相次いでいる。

Covid-19の影響下、欧州では大多数の人々が、自宅でも効率的に仕事ができると認識しており、将来的にはオフィスを離れ、自宅で仕事が十分にできると考えている。オフィスの「死亡記事」が増える中、感染対策や社交距離の徹底など、空になったオフィスに従業員を戻すための擁護論もある。オフィスは、100年以上も前から私たちの仕事と生活を形作ってきた。しかし今、オフィスは終焉するのか、それとも生き残るのか?二極化する意見の中で、オフィスの分散化や新たなワークスタイルの提案も盛んだ。

企業オフィスよりコワーキングスペースが重要な役割に

住居やオフィス需要が切迫しているベルリンでは、昨年、高層ビルの建築規制が緩和された。しかしパンデミック後、多くの計画が停止している。大都市のオフィスは、社会的距離の時代に適応するのに苦労しており、今後一気に急落する可能性がある。超高層ビルとの恋愛にも終止符が打たれるかもしれない。

ベルリンはこの10年で、才能あるフリーランス人材の宝庫となった。なかでも従来の企業オフィスより、イノベーションのエコシステムを支えるコワーキングスペースが重要な役割を果たしてきた。スタートアップの最新のスキルと出会うために、多くの企業従業員もコワーキングスペースに通いつめている。企業のオフィスが徐々にガランとした抜け殻になり、イノベーションの共創空間に企業の社員もフリーランスも、その壁を超えて集合するようになった。

欧州ではテレワークの普及も、パンデミック以前から認知されてきた。従来のオフィスを不要だと考える人々の増加により、企業はすでに新しい働き方を提案しており、デザイナーは人間工学に基づいた椅子を、居間の家具にどのように組み込むことができるかを考えはじめている。ベルリンでは、空になった大規模オフィスやショッピングモールの死を嘆くのではなく、それらの空間を「都市農場」として再生する計画も発表されている。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story