コラム

超エリートが走らす最先端の会社のかたち

2015年08月28日(金)13時53分

みんな責任者 尖鋭的な企業では、伝統的なタテ型に代わり分散型の組織が主流になる iStockphoto

 人が集まると、共同体ができる。農村のような血縁共同体もあるし、目的を持った組合や会社などの共同体もある。この共同体をどういう「かたち」にするのかというのは、組織の成功と密接に結びつき、時代によってもさまざまに移り変わってきた。近代になって国民国家が組織され、工業化が槌音高く邁進するようになってからは、ピラミッド型の階層を持つ「かたち」が一般的になった。社長をトップに頂く大企業がその典型例だ。

 ところが21世紀に入るころから、そういう階層型ではない新しい「かたち」が模索されるようになった。ITのソフトウェア開発の世界で使われた「伽藍からバザールへ」というのはその先駆けだったと言えるかもしれない。教会建築のように構造化された中央集権的な命令組織ではなく、バザール(市場)のように人々が自由に集まり、みんなで寄ってたかって作った方が良いものができるというような考え方である。

 最近は「ホラクラシー」という言葉もある。

 これはもともとは、アーサー・ケストラーが1967年に書いた伝説的な本『機械の中の幽霊』から来ている。この本の原題は「ゴースト・イン・ザ・マシーン」。同じタイトルのアルバムを英国のロックバンド、ポリスがリリースしている。また日本の漫画『攻殻機動隊』のGhost In The Shellもここからインスパイアされているという。

 ケストラーはこの本の中で、ホロンという言葉を使った。全体でもあり、部分でもあるというのがホロンだ。人間の身体というのは全体で、細胞は部分だが、広く社会に目を向ければ、社会が全体で、人間は部分でしかない。小さい方に目を転じれば、細胞だってもっと細かい単位が集まった全体で、大きい方をさらに見れば、大きな社会も日本社会の一部であり、日本社会も国際社会の中の部分である。そうやってマトリョーシカのように全体と部分は入れ子構造になっている。

先端企業が好む「ホロクラシー」型組織

 これがホロンの概念だ。われわれ人間はひとつの全体であるがゆえに自律的に動くことができるが、同時に社会の部分にもなっている。全体であるのと同時に、部分でもある。この両義の存在が自律的に動いていけば、上位の全体も自律的になる。部分だからといって命じられたことをただやるのではなく、「自分は部分であるのと同時に全体なのだ」と自覚することで自律的に動き、それが結果として上位の全体をなめらかに動かす原動力にもなる。

 このホロンを組織体系に持ち込んだのが、ホラクラシーだ。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story