コラム

さらに複雑化したニューヨーク市長選の対立構図

2025年07月16日(水)17時30分

というわけで、民主党の統一候補は最左派のマムダニ氏、共和党の統一候補はスワリ氏、そこに無所属で元民主党の現職アダムス市長、そして同じく無所属で民主党のクオモ元知事という4人の混戦がスタートしたのです。

これで、単純に民主党支持層が3分割されたので、共和党のスワリ氏が浮上するのかというと、そう簡単ではありません。実はここからが本論なのですが、選挙戦の構図のウラにある事情は非常に複雑です。


まず、トランプ大統領ですが、自分を嫌うスワリ氏とは犬猿の仲、そこで「ディール」を交わしたアダムス候補を支持すると見られていました。ところがクオモ氏が無所属出馬を表明すると「いいんじゃないか。アンドルー(クオモ氏のファーストネーム)は良い位置につけてる」という意外な発言をしています。

アダムス氏の勢いが弱いので、負け組に乗りたくないのかもしれませんが、アダムス氏にしてみれば、バイデン氏にも、そしてトランプ氏にも「裏切られた」格好となりました。ですが、ここへ来てソッポを向いていた警察の組合の一部が支持を表明したり、事態に翻弄され続けたアダムス氏を支える動きも出ています。

トランプはクオモ元知事を支持?

クオモ氏の無所属出馬ですが、これはマムダニ氏の「社会主義的政策」へのアンチの動き、つまりクリントン&オバマ路線の擁護という動きと思われていました。ところが、クオモ氏は出馬宣言の中で、「億万長者の撲滅」という左派的な発言を行って周囲を驚かせています。どうやらNY市長選に勝つには左へシフトしている若者票を獲得しないと勝てないとふんだうえでの言動のようです。

そのクオモ氏ですが、要するにコロナ禍対策やセクハラ容疑で、自分を陥れようとしたニューヨーク民主党の左派の政治家たちに対する「怨念」が「執念」となっているようで、主張の一貫性などはかなぐり捨てての無所属立候補なのかもしれません。そう考えると、トランプ氏の「支持するような口ぶり」もどこまで真剣なものかは分かりません。

こうしたなかで、一貫性ということでは全くブレないマムダニ候補が、やはり民主党支持票をまとめて勝利するという観測はかなり強いものがあります。「億万長者の存在は許さない」とするマムダニ氏を恐れて、一部のウォール街関係者の間には「オハイオ州に逃げよう」という動きがあるという報道もあります。昔と違って今のフロリダだと保守的に過ぎて、ニューヨーカーには不愉快。ならばオハイオというのですが、どこまで本気かは分かりません。

いずれにしても、このニューヨーク市長選の構図は、やはり現在の民主党の混乱を象徴しているのは間違いないと思います。その混乱の中から、新しい流れが出てくるのか、それはマムダニ氏のような最左派路線なのか、それとも、全く違う新しい路線が見出されるのか、まだ分かりません。混乱ということでは、実は共和党内も同じと言えば同じです。いずれにしても、アメリカの政治は「次」を模索し始めていると言えるでしょう。

【関連記事】
アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないのか?
トランプのイラン空爆と、米民主党のさらなる左傾化

ニューズウィーク日本版 総力特集:ベネズエラ攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月20号(1月14日発売)は「総力特集:ベネズエラ攻撃」特集。深夜の精密攻撃で反撃を無力化しマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ大統領の本当の狙いは?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イラン国民にデモ継続呼びかけ 死者20

ビジネス

デルタ航空、26年通期利益は20%増を予想

ワールド

独外相、米とは相違よりも一致多いと発言 グリーンラ

ビジネス

米、エヌビディア「H200」の対中輸出を承認
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 3
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が話題に 「なぜこれが許されると思えるのか」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「お父さんの部屋から異臭がする」...検視官が見た「…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story