コラム

トランプのイラン空爆と、米民主党のさらなる左傾化

2025年06月26日(木)16時00分

トランプ政権のイラン空爆への抗議は米国内では極めて限定的 Piroschka Van De Wouw/REUTERS

<現状不安が高まる若者の間で、左派への共感が想像以上に高まっていることに衝撃が走っている>

トランプ米大統領は、イランを空爆することでイスラエルの求めに応じるというよりも、自らの決断でイランの核開発を止めようとしているようです。当初伝えられたのは、イスラエルが地底深くのフォルドゥ核施設へのバンカーバスター攻撃を、アメリカに依頼していたという話でした。

ですが、トランプ大統領はフォルドゥだけでなく、イスファファン、ナタンツへの誘導ミサイル攻撃も実施しました。その理由については諸説ありますが、IDF(イスラエル国防軍)から依頼を受けた、つまり「頼まれた」攻撃ではなく、アメリカの国家意思としての攻撃とするためという考え方があります。

空爆に対して、イランはカタール他の米軍基地をミサイル攻撃したものの、ほとんどが迎撃された模様です。これを受けて、トランプ大統領はイスラエルとイランに対して「停戦の仲介」をしたとしています。当面は、この停戦を両国が守るかどうかが注目されています。

「体制転覆」には時間がかかる?

一方で、イランがホルムズ海峡を閉鎖するという説も流れていましたが、この点については、日本以上にイラン産の石油に依存している中国との関係で、閉鎖は不可能という見方が大勢を占めています。そんなわけで、当面の動きとしてはイランとアメリカの大規模な戦闘となる可能性も、第3次石油危機となる可能性も少ないと言う見方が多く、原油価格の安定、株価の安定の背景にはこうした観点があるようです。

週明けから、トランプ大統領は「イランのレジーム・チェンジ(体制転覆)」について言及し始めています。表面的にはイスラエルの主張に同調しているようですが、真意は不明です。仮に、1979年の革命以来、イラン国内で続いている「宗教保守主義」と「普通の国になりたい改革派」の対決の延長で、今度という今度は改革派が主導権を握るように後押しするという意味合いであれば、全く成立しない話でもありません。

ですが、誇り高いペルシャ帝国の末裔であるイランの人々が、アメリカとイスラエルの攻撃に屈するかたちで改革へと発想を転換する可能性はあったとしても、非常に時間のかかる話です。今回のイスラエルとアメリカの行動は、そこまでの配慮を伴ったものという印象はありません。

その一方で、アメリカ国内での空爆への抗議は、極めて限定的です。民主党の主流は、共和党と同じかそれ以上にイスラエル支持ということもあります。クリントン政権がパレスチナ和平に注力し、オバマ政権がイラン核合意に注力した過去もありますが、最終的には失敗に終わったと言われても仕方がないからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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