コラム

さらに複雑化したニューヨーク市長選の対立構図

2025年07月16日(水)17時30分

ニューヨーク州のクオモ元知事は、自分を陥れた民主党左派への「怨念」に突き動かされている Kylie Cooper-REUTERS

<民主党、共和党の公認候補に加えて、民主党の現職市長と元知事が無所属で出馬予定>

2028年の大統領選、その前の2026年の中間選挙の前哨戦と位置付けられているのが、今年11月に行われるニューヨーク市長選です。基本的にニューヨーク市は民主党の基礎票が過半数を占めており、通常の選挙であれば民主党の候補がそのまま本選でも勝つ可能性が高いとされています。

その予備選は既に6月24日に終わって結果が出ています。党内最左派のゾルダン・マムダニ候補が勝利しており、市内のバス無料化、託児所の無償化、市内の食品スーパーの公営化など、「社会主義的政策」を掲げて本選に向かう構えで、その極端な政策は話題になっています。


ところが、この11月に行われる市長選の本選の構図はそう単純ではありません。マムダニ候補の存在だけでも、十分に話題性がありますが、他にも独特の立ち位置から多くの有力候補が出馬の構えを見せているからです。

まず、現職のエリック・アダムス市長は無所属で出馬する意向です。アダムス市長は、バイデン政権時代に南部保守州が送り込んでくる移民(法的には難民申請者)を大量に受け入れました。ですが、バイデン政権はその苦労を称えるどころか、民主党のイメージを低下させたと言わんばかりの姿勢で冷淡に扱ったのでした。

アダムス市長を見捨てた民主党

それどころか、バイデン政権の司法当局はアダムス氏がトルコの総領事館から接待を受けたとして、市長を起訴したのです。最終的にアダムス氏は、自分を不起訴とする条件で、トランプ政権の「不法移民摘発」に協力するという「ディール」に合意しました。民主党はこれを裏切りだとして、次回の市長選の予備選に出馬する権利を剥奪しました。その結果、アダムス氏は無所属で出るというのです。

一方で、共和党は有力候補が少ない中で、予備選では前回の本選でアダムス氏に負けているカーティス・スワリ候補がすんなり候補に決まりました。市内の治安を守る自警団組織を長年運営し、銃を持たない丸腰での自警活動で評価されているユニークな人物です。では、共和党は一枚岩かというと、このスワリ候補は「筋金入りのトランプ嫌い」で有名なのです。

さすがに現在はトランプ批判を控えているものの、トランプ第一期政権の際には、共和党から脱退していただけでなく、地元のFMラジオで「アンチ・トランプ」のメッセージを出し続けていたのは有名です。ですが、他に有力な候補がいない中で、最も集票ができそうなのはスワリ氏ということで、今回も統一候補になったのでした。

そこへ、7月15日になって、一度は民主党の予備選でマムダニ氏に大差で敗北したアンドルー・クオモ元ニューヨーク州知事が、改めて無所属で市長選に出馬すると表明したのでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、シリア南部の暴力行為を非難 責任追及を要請=当

ワールド

英、選挙権年齢16歳以上に引き下げへ 29年総選挙

ワールド

イスラエル、シリア国境地帯の非武装化要求 トルコは

ビジネス

アマゾン、AWSクラウド部門で人員削減 数百人に影
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 5
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 6
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 10
    「1日30品目」「三角食べ」は古い常識...中高年が知…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story