コラム

熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しないのか?

2025年07月02日(水)14時45分

さて、検温の結果、一刻も早い冷却が必要となった場合の決定打は、やはり「アイスバス(水風呂)」です。冷水に全身を浸して急速に冷やす、これが何よりも効果があります。欧米では普及しており、特にアメリカでは熱中症対策だけでなく、夏場のスポーツ活動後の「クールダウン」にも快適だとして、幅広く市販されています。アマゾンでは40ドル(6000円弱)前後で様々な種類が販売されています。

この「アイスバス」については、ここ数年、日本各地の医療機関で導入が進んでいます。ですが、こちらも心理的な壁が課題になっています。患者をいきなり冷水に入れると、心臓にショックを与えるという先入観があり、それが抵抗感になっているのです。


7月に入り、猛暑はより深刻な状況になっています。全国の広い範囲で連日のように熱中症アラートが出ています。そんな中で、熱中症対策の決定打とも言える「直腸温の検温」と「アイスバス」という対策が、心理的なイメージの問題で普及していないのは極めて残念です。ちなみに、「アイスバス」の現場での使用について法令等の改正が必要であれば、是非進めていただきたいと思います。

その上で、例えばですが、厚労相や医療系のタレントさんなどが、キャンペーンをやるとか、専門家が丁寧に説明するような番組をテレビでやるなど、広範な普及活動を行ってはどうでしょう。用具、機器に関してはそれほど高価なものではないので、コロナ対策のような莫大な費用もかからないと思います。

全国の救急隊員の方々は、作業的には大変になるかもしれません。ですが、この2つの対策を導入すれば救命の可能性が上がるのですから、意気に感じて頑張ってくださるのは間違いないと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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